人でなし

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ひとでなし(・・・・・)は、昼間に出歩かない。 基本的に行動をするのは、日が沈んでからだ。 目撃されている洋館の近辺には街灯もなく、格好も鮮明ではないことから、動く影とまで呼ばれている。 その様子を撮られた写真を何枚か見てきたが、確かにどれも真っ暗闇の中、どんな服装なのかも判別不可能だった。しかしそれでも、服を着た人間であるように見えた。 ひとでなし(・・・・・)が近付くと、異音がする。 これは、録音されたものは聞いたことがない。体験したもの(いわ)く、録音をする余裕がないという。 そして音の特徴は、数種類に分かれていた。 ガサガサとビニール袋が擦れるような音。ザラザラと髪の毛を擦るような音。耳鳴りのように、一定の高い音が聞こえてくる。黒板を引っ掻いたような音……。 どの報告であっても、聞いた時には不快感、嫌悪感と共に、身の毛もよだつ程の危機感を覚えたという。 そして、ひとでなし(・・・・・)と会話をした人間はいない。 これは話すことを避けた、という意味ではない。 話をした人間は、一人残らず──死んだというのだ。 一番大切なことは、初めてその名を聞いてから十数年が経っていたが、今も尚ひとでなし(・・・・・)は居るというのだ。
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