祖母と本

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祖母と本

暗い青色の表紙を見た祖母は、目に本とは違う別のものを映しているようだった。なぜか焦燥感を感じた。この本が、祖母の手に触れられたことに喜んでいるような気がした。祖母は丸くなってしまった角を撫で、ある人の名を呟いた。 結論から言うと、この本は祖母のものだった。正確には、今は亡き祖父が書いて祖母に贈ったものだった。 祖母は戦争を生き延びた人だったが、徴兵された夫を亡くしてしまっている。戦後のゴタゴタで祖母の家は盗難にあってしまった。その時に盗まれていたものの中にこの本があったのだという。生前、夫が唯一贈ったものが盗まれ、祖母は憔悴してしまった。それが数十年後、孫の手によって自分のもとへ帰ってきた。祖母は、奇跡のようだと言った。 間違いなく奇跡だと思う。あの時、私は一目惚れした。多分、祖母の血を引く私にもらってほしかったのだ。私が手に取ると、不思議と温かく感じた。 思い切って買ってよかったと思う。今まで私は思い切って買うことに気乗りはしなかったが、こういう事があるならこれからはちょくちょく衝動買いをしてみようと思う。 本は祖母に譲ることにした。本もその方がいいだろうと思ったからだ。数十年ぶりの2人を見ているだけで心が暖まった。 古本屋での直感を信じた出会いが、新生活に彩りを添えてくれた。何かを買うときに直感を信じて買うのもありかもしれない。
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