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①-1
「ダメだよ!」
それは僕の妻である希海(のぞみ)の口癖だった。いつもそうやって可愛らしく、僕の行動や性格に苦言を呈すのだ。そして目の前にいる彼女はまた言葉を続ける。
「ダメだよ、そんなに悲観的なことばかり考えてちゃ」
僕は彼女に反論する。
「いや、むしろ君が楽観的すぎるんだ」
「どうしてよ」と、きょとんとした顔の希海が返す。
目の前の食卓に並んだ、彼女が作ってくれた料理は、ほとんどが魚介系の食
材を用いたものだった。この百年で、僕たちの食生活は大きく変容を遂げた、らしい。
「こんな異常気象が続く世の中で、そのうえ今回の新型ウイルスだろ? なんで希海がそれを前向きに捉えられるのかが、僕には分からないよ」
心からの疑問を僕は彼女にぶつける。
「そうじゃなきゃ、頑張っていけないもの」
「ただでさえ希海の仕事は危険なのに……」
「心配してくれて、ありがと。でも、あなたが心配性で悲観的すぎるだけだって」
そう彼女は笑いながら、箸で掴んだ煮魚を口いっぱいに頬張った。
「そんなことないさ」などと口にしつつも、僕は現在進行形で、この絶望的な現状について考えている。
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