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 そして、そこからとんと記憶がない。  目覚めたのは、十分ほど前だ。腕にしていたはずの時計がなく時間経過は私の体感でしかないのだが、充分にそれくらいは経過しているはずだ。やけに軋むベッドの硬さと鼻をかすめた馴染みのない消毒液のような匂いに違和感を覚え、私は飛び起きた。  目に飛び込んできた景色は全く知らない部屋だった。  十畳ほどのワンルームだ。同時に、私は病院のようだとも思った。消毒液の匂いのせいもあるだろう。それも立派なものではなく田舎の診療所みたいだった。木製の棚には、ちょっとした医療器具と小瓶に入った薬が並んでいる。  その他にこの部屋にあるものと言えば、自分が今横になっているベッドの他は診療所には似つかわしくないものばかりだ。ダイニング用のテーブルと椅子、うるさいくらいに音を立てた一人暮らしサイズの冷蔵庫、それに古めかしい雰囲気の台所だ。テーブルにはご丁寧にランチョンマットが敷かれていた。  誰かが使っている雰囲気があった。診療所として機能しているのかもしれない。だとすれば私は運び込まれたのだろうか。酔いつぶれて介護されていたのなら仕方がない。
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