シュガーレスハニーミルク

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トン、と小さな衝撃の後、パシャ、と冷たい液体がシャツやズボンを濡らした。 トレイの上でご丁寧にこちらに向かって倒れたアイスコーヒー。幸い、グラスが割れることはなかったが、トレイは一瞬にしてコーヒーの海になった。 「………」 トレイから溢れたコーヒーが手を伝い、腕を伝い、肘まで濡らす。ポトポト、と茶色っぽい黒い液体が床に溜まりを作った。 それを呆然と見つめる1人の女性が口を半開きにさせたまま立ち竦んでいた。 目を見開き、絶望を表したその表情はみるみるうちに蒼白になる。彼女の視線は自然とコーヒーがかかった自分の服から顔に移った。 「も、もももも申し訳ありませんっ!!!」 女性はこちらが申し訳なくなるぐらい取り乱し、泣きそうな顔で何度も頭を下げた。その先輩だろう、彼女より少し年上の女性も飛んできて一緒に頭を下げられる。 「いえ、大丈夫です。むしろ、急に止まったこちらが悪いので」 「すみません、すみません」とそれでも尚続く謝罪の言葉。周囲の視線を一気に浴びて居心地が悪い。数人のスタッフが店内清掃に移っていく中、未だ頭を下げられてどうしたもんか、と溜息を吐いた。 「本当に気にしないでください」 エプロンの左胸の名札には“研修中”のバッジが付いていた。きっと大学生だろう、幼い顔立ちが純真無垢さを語り自分を悪者にさせているように感じた。 武藤静馬 28歳。 それが、彼女、鉢屋真白との出会いだった。
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