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離婚に至った理由は、お互いを思い遣れなくなったことが大きいだろう。
結婚して半年して、彼女は仕事を辞めた。同時期に俺は転職した。できれば彼女の理想の生活に近づきたかったからだ。
都内まで片道1時間の電車通勤に加え、職場に慣れるまで朝早く家を出て、夜遅く帰宅することが続いた。
顔を見て食事をすることが無くなり、家に居ることを望んだ彼女が寂しさを感じていることに気づかなかった。
会話がなくなり、すれ違いが生まれる。顔を合わせば文句を言われ、それが面倒くさくてさらに溝が深まった。
その文句は、寂しさから生まれているものだと離婚して時間が経って気がついた。
彼女は望んで専業主婦になった。どうしてそれほど専業主婦にこだわるのか、かつて聞いたことがある。
それは。
ーーー家に帰って誰かいる方が嬉しいじゃない。あたたかくて。
皮肉だと思う。
彼女は迎えたい、人だった。労いたい、と思っていた。俺は彼女の理想を叶えてやりたいと思って条件が良く、かつ、やりがいのある会社に転職した。
お互い思い遣った結果、わずか2年で破綻。
最後は裁判になって金銭面の云々だったり、家具だったり。都心まで片道1時間かかるものの、駅近の真新しいマンションの自宅を彼女に譲って、俺は都内の6畳ひと間に引越して全て終わった。
最後はもう辟易していた。お互い顔も見たくなかったと思う。
大切にしたかった、存在がこうまで変わるものなのかと、それがいちばん悲しくて、離婚した理由だった。
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