シュガーレスハニーミルク

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その後も俺のルーティンは変わらなかった。気にしていないと言えば少し嘘になる気もするが、コーヒーを溢されたこと自体特に気にしていない。 「アイスコーヒー、Lサイズで。持ち帰ります」 俺は毎日朝と午後にこのカフェに立ち寄るが、彼女と会うのは週に2、3回ほどだった。大学の授業の関係もあり、シフトもまちまち。 だけど店にいたら自然と彼女を見つけられるようになった。彼女の方も次第に仕事に慣れてきたのか、肩の力を抜いて生き生きと仕事をしている姿を見かけるようになった。 良いことだと思う。 そんなことをしみじみと思っていると、ある日彼女の方から話かけてきた。 「あの、あの時はありがとうございました」 コーヒを受け取っていると彼女はいつぞやのことを持ち出した。俺は気にせず「いいえ」と軽く返事をする。 「…おかげで、今は、…仕事が楽しいです」 失敗してひとつ成長した。失敗しないことには誰も成長しない。 「それはきみが」 「鉢屋(はちや)です。えーっと」 「武藤です」 「武藤さん。やっとお礼が言えました」 よかった、と嬉しそうに笑った彼女は「明日もお待ちしています」と丁寧に見送ってくれた。 それからだ。彼女が俺を見つけるとよく話かけてくれるようになったのは。 まるで雛鳥が親を認識したように彼女は色々と話してくれるようになった。
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