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黄巾賊が平定されたと、河北一帯は喜び将軍たちを讃えたが、黄巾賊の残党と、力を持った豪族が、我が者顔で暴挙を働く時代となり、民は大いに苦しんでいた。特に、涼州の董卓が皇帝を擁し、実権を握ったために暴虐の限りを尽くしていた。華北一帯は、大いに荒廃し、土地を捨て逃れた人も多く、荊州や、呉、蜀等の地に民は流れたという。
荊州はその後、劉表が太守となり、荊州の今後の反乱因子である土豪を鎮圧していったため、大きな動乱に巻き込まれることなく、肥沃な大地となり、襄陽は優秀な名士が集まり活気のある国へと変わっていった。
八年後の一九二年、華北では、董卓を呂布が誅殺したが、董卓腹心の涼州軍より恨まれ、李傕らに長安と皇帝を奪われた。呂布は武関で涼州軍と戦ったが、大将の郭汜は討てたが、李傕によって破られ、逃亡した。
廖淳は、八才になっていた。父代わりの龐昂は、妻を娶り、養子と言うよりかは従属人と言う形で、共に生活していた。龐昂から、恩恵を受け学問や兵法などを教わっていた。廖惇は、学問はそれほど興味を示さず、軍略については、呑み込みが良く、身体はしなやかで、走らせれば、年上の者よりも数段早く走れた。
その日は、龐昂と荊州南陽に出る予定だった。下女の娘、蘭も同世代で、仲が良かった。
「元倹!どこいくの?」
「龐昂様と、南陽に買い出しだよ!」
「あんまり悪さをするんじゃないよー」
「うるさいなぁー、わかってる」
そんな会話をし、襄陽を後にした。南陽に着くと、買い物に付き添いながら、龐昂と廖淳は、問答をしていた。
「廖淳、お前は、軍師と言う性格ではないな。どちらかと言うと、兵士を統括して、共に戦う将の方があっているのだろうな」
「龐昂様、軍師って?」
「戦で、本陣に居て、戦いの指揮をする大将に、戦術や兵の動き、米の数や攻める方法、相手がどう攻めてくるかを予想して、攻めや防御など考える人だ。まぁ、天才のなせる役割だな」
「へぇー、頭が良くないとできないよなぁ。オイラには、向いてないや」
晴れやかな笑顔で、はなから軍師はしないと決めている廖淳に、龐昂は、
「軍師になるには、相当の才が必要だ。今のお前には、天才は遠すぎるわ! 少しは勉強をしたらどうだ」
「天才は、龐徳公様の甥、士元様だけでいいよ。勉強を教えてもらっているけど、チンプンカンプンだ!」
廖淳は、はは、と、話を逸らすようにし、帰路の方角へ走り出した。その時、ある兵団の歩兵とぶつかり、廖淳は転がった。
「小僧!どこに目を付けてやがる!斬られたいのか」
歩兵は剣を振り上げ、廖淳に斬りつけようとした。龐昂は、二十歩ほど後方にいたため、廖淳を助けれず、
「廖淳!」
と、叫ぶことしかできなかった。しかし、その瞬間に、歩兵の剣を大きな戟で振り払い、
「無邪気な民を、殺すことはないだろう。ましてや子供だ」
と言い、歩兵の首元に戟を突きつけ、辞めさせた者がいた。長い尾長羽の付いた兜、赤い鎧に、どう猛な汗血馬に跨った将軍が悠然と馬上から戟の尾を廖淳に握らせ、起こした。
「あ、あの者こそは……」
龐昂は、その場にひれ伏せ、感謝の言葉を叫び、廖淳は、龐昂に並び頭を地面に着けた。
「童よ、命拾いをしたな。大きくなったら、この呂布を助けてくれよのう」
大きく笑い、城内の方へと去っていった。
「呂布将軍が、何故にここに……」
呂布は、董卓を殺した後、涼州軍との戦いに敗れ、放浪状態となっていた。南陽太守となっていた、昔からよしみのある袁術を頼ってきたのだった。龐昂は、冷めやらぬ胸の鼓動を抑えるため、城門の前で座ってしまった。廖淳は、満面の笑顔で、龐昂に語った。
「オイラ、大きくなったら、呂布将軍の兵隊になる!そして、自分も将軍になりたい」
「廖淳、腰を抜かしたようだ、ちょっと休ませてくれ」
廖淳は、その時見た、呂布のきらびやかな装飾された鎧などの身なりと、その豪胆さ、武勇に憧れを持った。畏敬の念と尊敬の眼差しで、ああなりたい、直感でそう感じたのだった。
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