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第九話 博望の戦い
三顧の礼により隆中から、軍師諸葛亮がやってきた。秋、諸葛亮が来てしばらくたったある日、劉備は、すこぶるご機嫌で、常に諸葛亮と行動を共にしていた。
反対に、関羽と張飛は、仏頂面である。それもそのはず、今まで、寝食を共にしていた間柄に割って入られたのだから。劉備は、諸葛亮を、「水魚の交わり」とまで言い、関羽と張飛に諸葛亮を、強く受け入れるよう強制していた。
「兄者は変わった、あの孔明の奴め!」
「張飛、口を慎め。俺も怒りはあるが、兄者に逆らうのか」
相変わって、劉備の緩む顔。諸葛亮と常に隣で闊歩し、天下の話をしている。
そんな折に、夏侯惇の配下、韓浩と曹純が南陽より進軍新野に攻めてきた。その数五千。
新野と樊城を拠点とし、劉備軍は、待ち構えた。諸葛亮の策略を駆使し、関羽、張飛は千騎ほど前線で待機、横撃隊として、樊城の守りをしていた趙雲や廖化、簡雍、糜芳、周倉などを左右五百兵ほど配置した。
曹操軍では、劉備軍が新たな軍師を登用したと間者からの情報で聞き入れ、曹操は徐庶を呼び問いただした。
「徐庶よ、お主は、劉備の下で軍師をしていたというが、この度新たな軍師を登用したと聞いたが知っておるか」
「ああ、知っている。その名は、諸葛亮孔明。魏に仕える石韜、崔州平と交友がある才人だ」
「ほぅ…… お主と比べて、どのくらい才能がある」
「私を十として、諸葛亮は、百それ以上だろう」
曹操は、大笑いをして、
「それでは、早めに劉備とその諸葛亮とやらを潰しておく必要があるようだ。夏侯惇に伝令をし、大軍で一気に押しつぶせと命令しろ」
徐庶は、確信していた。諸葛亮は、曹操の攻撃を食い止めることができると。その後が、大変なことが待ち受けている。その時に、劉備を助けられるのは、鬼才の持ち主だけでなく、判断力と説得力のある人物でなければならない。それならば、自分は役不足である。諸葛亮に、その後を委ねたのだった。
夏侯惇は、曹操からの伝言を受け、宛城を出発し、自分も敵陣近くまで軍を動かした。曹純と韓浩は、新野へ攻め入った。
劉備軍は、諸葛亮の策にて軍の配置に着いた。しかし、中央軍である関羽と張飛が将軍として指揮をせず、新野城から出てこないという。中央軍は、劉備、劉封、廖化が指揮を執った。
敵陣の曹純が、韓浩と顔を見合わせた。
「おや?敵軍に、関羽と張飛がおらぬな」
「我らを侮ったな!小癪な」
両将は、怒りに任せ、突撃をしてきた。
「単細胞の将は、料理するには簡単です、劉備殿、さあ、横撃を開始しますよ」
諸葛亮の合図に、趙雲、廖化の部隊が曹操軍を挟み撃ちとした。
「あれは趙雲!」
「韓浩、いざ覚悟!」
両社が一騎打ちとなった。槍と槍とで打ち合いとなり、数十合、趙雲が韓浩の攻撃を完璧に抑えた。
「それまでか。韓浩」
「ぐぬぬ……」
韓浩は退却し、曹純軍だけ残った。曹純は、近くにいた廖化を狙い攻撃してきたが、廖化の部隊も、元は関羽の部隊で訓練が行き届いており、屈強だった。
「そこの大将、いざ勝負!」
廖化が、曹純へ思いっきり剣で斬りかかった。曹純は、廖化の攻撃を受けたが、攻撃の力と速さが尋常でないと思い、慌てて隊を引き返した。
「に、逃げろ、全軍退却だー!」
曹操軍は、諸葛亮の献策と、趙雲、廖化の善戦により、新野城前の戦いに勝利した。
新野城では、劉備と諸葛亮が、いつもの水魚の交わりをしていた。この戦後、より、二人は親密になったように見えた。
関羽と張飛は、そんな二人を見て、機嫌が悪かった。廖化は、関羽の側近たちと共に邸宅に入った。
「関羽将軍、いかがいたしましたか?」
「ふん!何でもない。廖化、関平、兵の訓練と武器の補充をしておけ!」
「御意」
二人で外に出て、準備に取り掛かった。
「関平殿、父上は、ややご機嫌が斜めでいらっしゃるようだが」
「はい、そうですね。父上の機嫌の悪さは、今までになく酷いです。諸葛先生の件が影響しているのは、明白なんですが……」
「どうしたものか。このままでは、また、曹操軍が攻めてきた際も、戦に出ないなんてことがあるかもしれません」
廖化は、新野場内に行き、劉備と諸葛亮に謁見した。
「関羽将軍主簿廖化、劉備様に拝見いたします」
「入れ」
諸葛亮は、廖化を見て何かを悟った。
「関羽将軍のことか」
「……。 お察しですか?」
「関羽が、どうしたのだ?」
劉備は、廖化に訪ねたが、諸葛亮が割って説明した。
「廖化よ、我が主君が、私と常に行動しているのが面白くなく、苛立っていると、だろう」
全く、自分の言葉を聞いてもいないのに、なぜわかるのか、そんな表情で頷いた。
「関羽殿と張飛殿は、劉備様と寝食を共にした兄弟。それが、私が来たら全く別になったのだ、間違いない。怒りの矛先は、この私である」
「先生、我が弟達が、お恥ずかしい。いかがしたらよろしいでしょうか」
「時期、曹操はまた攻めてきます。次は、大軍で、尚且つ、猛将で攻めて来るでしょう。その時は、何としても、お二人に従軍してもらわねばなりません」
劉備が、項垂れ、
「この私から、きつく話しておきましょうか」
と言うと、
「その時は、殿の剣を私にお貸しください」
「わかりました」
廖化は、取り敢えず、何とか今後、関羽が戦に出るようにして欲しいと思っていた。
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