第九話 博望の戦い

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 そこに、急使がやってきた。 「襄陽太守、劉表様より言があります」 「劉備、劉表殿に拝謁します。伝言とは」 「北方からの偵察によると、曹操は、宛城の夏侯惇に命令を出し、荊州を攻めるよう進軍準備をしているとのこと。新野にて人材と兵を強化している劉備様に、討って出ていただき、攻撃を防いで欲しいとのこと」 「承りました、劉表殿にお伝えください」  伝令を帰し、諸葛亮と戦略を練った。 「我らも、討って出るため、博望破に陣取りましょう」 「先生、軍議を開きますので、その計略をお教えください」  劉備は新野場内にて軍議を開くため集まったが、関羽と張飛は、邸宅から出て来ようとはしなかった。劉備は呆れかえり、 「やれやれ…… 兄弟は一体何をしている」  諸葛亮が、助言をし、 「殿自ら、出向いてはいかがでしょうか」  廖化は、関羽の傲慢さを知り、主として崇める一方で徐庶の言っていた仇となる場面を目の当たりにしたようだった。  劉備は邸宅に行き、酒を飲んでいる張飛と関羽に叱責した。 「軍議があるというのに、何をしている!」 「兄者、兄者は、アレと俺たち、どっちをとるんだい!」  張飛が、自棄になって言うと、 「兄弟は、お主達だけと言うのに、なぜ、このようなことをする。敵は、あの夏侯惇、お主らの力が必要なのだ」 「兄者、『水』を使えばいいのだ、水を」 「何?水だと?」  関羽も、失笑した。張飛は、意気揚々と語りだした。 「孔明の野郎と兄者は、水魚の交わりなんだろう。だから、兄者が魚なら、孔明は『水』だ!」  劉備もあきれ返り、 「そこまで言って、軍議に出ないのならば、兄弟の縁も切るし、出ていくのだ」  関羽が驚き、張飛を窘め、 「張飛、まず、宮廷に向かうのだ、軍議に出るぞ」 「関兄、良いのか、このまま黙ってて!」 「張飛!よせ!」  関羽に引きずられながら、張飛は軍議に出向いた。 諸葛亮と目を合わせない二人。諸葛亮も、こうなることと予想した。 「では、軍議を開始する。曹操軍夏侯惇が宛城より南下してきた。我らは、劉表殿の命により、樊城北より防ぐ」  諸葛亮が、次に進言し、 「この度の戦いは、我が軍四千に対し、敵は十二万と大軍だ。多勢に無勢のため、計略を図ることにする。我が命に従って欲しい」  将達は、一同に、返事をするが、正面にいる関羽と張飛の口は、微動だにしない。 「まずは…… 趙雲。樊城より討って出て、夏侯惇をおびき出し、ある程度引き付け戻って逃げよ」 「次、劉封、糜芳、関平」 「はっ!」  お主らは、趙雲の部隊が夏侯惇の部隊を引き付け、後で火が上がったら、火薬と油を投石し、火で敵を囲むのだ。 「御意!」  諸葛亮は、張飛を見た。 「では、麋竺、張飛殿」 「…」  無言で前に出る張飛。 「豫山に潜み、敵の長い行列が中腹より進んだら油と火矢を放ち、敵を分断するのだ」 「ふん! その若造の命令などきかんわ」  劉備が、張飛を見て怒ろうとその場を立ったが、諸葛亮が制止させ、 「将達よ!ここに劉備殿の剣がある!」 「それが何だ」 「命令は、劉備殿の命令と思え。でなければ、この剣で斬る」 「ひ弱な若造に斬られる、俺ではない!」  髪を逆だてて怒る張飛であったが、関羽が制止させ、 「兄者を裏切るのか、命令を聞くのだ」  と、落ち着かせた。 「孫乾、簡雍殿は劉備殿と中央軍に参軍すること。さあ、皆の者、準備にかかれよ」  諸葛亮の号令で、皆、持ち場に散っていった。
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