第九話 博望の戦い

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 「先生、某が呼ばれておりません」  関羽が、前に出た。廖化も、実は呼ばれておらず、後に待機していた。 「関羽殿、貴殿には、非常に重要な任務を残してあったので、呼ばなかったのです」 「……。では、先生、どのような、計を任務すればいいのでしょう。この関羽、常に戦場の重要な場面で、劉兄を補佐した自負があるのですから」  諸葛亮は、一呼吸おいて話した。 「曹操軍は、今まで他の将に授けた策で、ほぼ壊滅でしょう。しかし、夏侯惇や重要な将は、宛に逃げる途中、経由地である楮陽城か葉城に退却すると思われます。敵の後陣には、于禁と張遼がいるそうです。関羽将軍、この二城を落とせますか?」 「御意!周倉と廖化を連れていきます」  とうとうやる気を出した関羽に、廖化は安堵した。  戦の当日、関羽等は、豫山の対側にある安林に潜み、敵が退却するのを待った。趙雲が引き付けた夏侯惇軍は、細い山道で、長い行列となり、部隊は、趙雲を追いかける先鋒と山間部で移動している部隊とが離れてしまっていた。 「夏侯惇将軍、行軍が追い付いておりませんし、このまま進むと危険では?」  李典が夏侯惇を諫めるが、 「そんなものはどうでもよい、兵は我が軍が多いのだ。目の前の敵を蹴散らすのだ!」  と、強行策をとったため、諸葛亮の策に、まんまとかかった形となった。行軍で、山道に入ったばかりの于禁と張遼が、 「何かおかしい、伝令の話では、わずか四千足らずの兵士で、しかも、農民が混じっているような弱小部隊で攻めて、すぐに退いたというではないか」 「確かに張遼殿の言う通りです。前進におります、夏侯惇将軍に話をしてみます」  于禁が、早馬で間延びした兵団を縫いくぐり進んでいくと、前方の方から、火矢が降り注ぎ、混乱した自軍が迫ってきた。 「なんだ、何が起きたのだ!」  于禁は、動揺して、張遼のいる場所へと引き返した。大将の夏侯惇は、四方を火で囲まれ、退路も塞がれてしまった。前方からは、火薬と油投石、左右の山からは、弓と落石、身動きも取れない状況になり、曹操軍は大損害となった。夏侯惇は、側近の李典と韓浩に何とか退路を開け助けられ、命からがら火の中を掻い潜り後陣へと退いた。  趙雲は、奥深く攻め入っていた曹操軍の将、夏侯蘭を捕らえた。 「む、お主は……」 「ち、趙雲。ここで会うとは、運にも見放された」 夏侯蘭は、趙雲と同郷の者であり、顔見知りであったため、斬らずに、投降することを勧めるように劉備のところへと連れて行った。 「夏侯蘭と言ったな、ところで、楮陽城と葉城は、大軍で押し寄せているためほぼからの状態であろう」  諸葛亮が言うと、 「そ、そのことをなぜ…… 確かに。両城は、兵は二百ほどしかおらず、将もおりません。今、攻めれば簡単に落ちるでしょう」  夏侯蘭に役職を与え、登用することにしたが、趙雲は同郷だからと言って降将であるため、交流は避けるようにした。  その頃、関羽と廖化、周倉は、混乱のまま退却しようとする曹操兵を見た。 「なんと、これは無残な…… よし、我らも討って出るぞ!」  関羽等は、林から横撃し、北へと追った。 「そこにいるのは、関羽!」  曹操軍から、于禁が現れ、関羽は真っ先に于禁に攻め入った。于禁は、驚いて、攻撃を避け、背を向けて逃げ出したが、赤兎馬に追いつかれそうになる。 「ここまでかっ!」  于禁は覚悟を決めたが、関羽の青龍偃月刀が背には当たらず、鈍い金属音を残し、弾かれた。 「関羽!俺が相手だ!」 「張遼か、いざ、勝負!」  関羽と張遼の一騎打ちが繰り広げられたが、さすが、関羽は強かった。数十合打ち合いで、張遼は圧され気味になった。于禁がすかさず手助けに割って入ったが、廖化が于禁の攻撃を防いだ。 「お主、あの時の小僧!」 「于禁将軍、いざ!」  廖化は、素早い剣の攻撃で于禁を抑えた。夏侯惇と李典が後続の集団に追いついた。煙に巻かれ、命からがらで、戦う気力も無いほどであった。夏侯惇が、張遼と于禁の軍団が関羽に攻められているのを見て、近い二城に入るのを放棄した。
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