第十話 長坂破の戦い

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第十話 長坂破の戦い

 曹操は、二〇五年、同盟を結んでいた袁譚を滅ぼし、冀州を平定した。この頃、袁尚の甥高幹を含めた中原の豪族が、曹操に対し抵抗していたが、黒山軍の張燕が十数万人の軍勢を率いて降伏してきた。袁家や烏桓の問題が解決すると、いよいよ、荊州に手が伸びて来るだろう。諸葛亮は、常に北からの攻撃に備えるよう、複線を張っていた。  廖化は、武陵にいた。武陵の太守である金旋は暗愚で評判であった。この地域の名士は、愛想をつかし襄陽や呉へと流れていったと噂がある。  武陵に来る前に、龐徳公と龐山民に、廖家の本筋に当たる人物を紹介された。龐山民は言うには、 「龐統と並ぶ知恵者だが、性格はひねくれ者。気を付けて当たれ」  とのこと。地元の豪族であり、しかし資金面と軍事面では力がある話である。武陵は、劉表の管理下で、劉備軍である廖化は、何なく関所を通ることを許された。武陵でも、大きな邸宅を訪ねると、廖氏に通された。 「初めてご挨拶をいたします、襄陽廖家に生まれ、龐徳公様のお世話になっておりました、廖化と申します」  拝謁しながら言うと、そこの主が、下人より呼ばれ椅子に座った様子だった。 「廖化と申したな。龐徳公様より話は聞いている。で、何用かな」  廖化は、顔を上げた。そこにいたのは、二十歳になるかならないかの若者であった。 「あ、はっ!某は、我劉備軍の強化としまして、兵や資金をお借りしたく、縁者という事もあり頼ってきたところであります」  この若者が、龐統と並ぶ知恵者で曲者?廖化は疑った。 「我名は、廖立。廖化よ、親戚だから大目には見ない。そして、若いと思って、下手に見ると、痛い目にあうぞ」 「えっ?いや、滅相もありません。廖立殿、我が主劉備殿は、漢の末裔。荒れるこの世を正し、漢の再興を目指しています。どうか支援を宜しくお願いしたいのです」  暫く考えた廖立だったが、 「廖化よ、確かに同じ『廖』姓だし、襄陽に分家があったという話は知っている。しかし、大分前に乱に巻き込まれ取り壊しとなったわけだし、お主が、そこの子だという確証はない。正直、支援するには理由が無さすぎる」 「それは…… 私は、間違いなく、襄陽廖氏の子、以前は、廖淳と名乗っておりましたが、仙人に会い名を変えました」  廖立は、立ち上がり奥に戻ろうとしていた。 「お待ちください廖立殿、私は!縁があり劉備殿の義兄弟、関羽将軍の主簿として新野におります。我が軍は、四千と兵が少ないですが、将は万武不当、諸葛孔明様を軍師に迎え、天下にも負けません。近い将来、曹操が南下し、荊州は呑まれてしまいます。武陵も安心できるかどうか、わかりません。どうか、対抗するべく、支援を」  廖立は、廖化の実直さを感じ、頭を床に打ち付けるしぐさに困り、頭を掻きながら、 「では、廖化。試させてもらうぞ。武陵より南に賊がおり、荊州四軍を荒らしている。この賊を平定してくるのだ」 「御意!ありがたく!」  廖化は、早速、同行している馬兄弟と伊籍等、五十の兵を連れ南に行軍した。賊は、桂陽よりも南、広州の国境沿いにいるようだ。二・三日の行軍で、その駐屯地らしきところを見つけ、仲間と攻める計画を練った。 「敵は、ざっと見て五百くらいか。馬良、どう見る?」 「陣を見るに、大将は、中央ではなく、後方森手前に位置し、裏から回り大将の首を斬れば終わりでしょう」 「うむ、考える余地も無い。行くぞ!」  廖化は、先陣を切り、馬兄弟を引き連れ、後陣に伊籍を配置した。総勢五十の兵であったが、一虚に後方から攻めた。 「な、なんだ!」  賊の大将が慌てふためくが、廖化の強襲にあっという間に斬られた。 「荊州南郡を脅かす賊ども、大将の首は斬った。悪さをする者は、ここで片づけるから、そのように思え。皆、ここで解散し、我廖化と共にしたいものは残れ」  賊の半数は逃げ、二百の者は軍門に下った。廖立のもとに、報告に行こうとしたその時、前方の道を防ぐ者がいた。 「だれだ?」 「ほぉ、かわいい我子分たちを、よくも壊滅してくれたじゃねーか……」  鈴の音と一緒に近づいてくる、大柄の将は、薄笑いを浮かべながら廖化の前に立ちふさがった。賊が恐る恐る口にした。 「か…… 甘寧殿……」 「甘寧だと?」  
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