第十話 長坂破の戦い

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 二〇六年、曹操は袁紹の甥の高幹を討伐し、并州を平定した。この時に、昌豨も討たれ、華北の患いは無くなった。廖化が昌豨の死を聞いたのは、それから数ヶ月後の事だった。 「あの大物でも、曹操に勝てなかったか……」  廖化は、曹操の強さと狡猾さを思い出し、身震いした。華北が鎮圧されたならば、荊州を目指し南下してくる。これは、諸葛亮も予想していることだ。より、多くの味方を増やそ訓練さねば、廖化は心から思っていた。甘寧から譲り受けた猛者たちも、大いに鍛錬に参加しより、屈強の部隊へと変貌していったのあった。 次年二〇七年、曹操は、袁氏に味方する蹋頓ら烏桓族を攻めるため、曹操自ら大軍を率いて、遼東に遠征すると報告があった。 劉備は、劉表の宴席に呼ばれており、諸葛亮の計らいもあり、曹操が留守である許都を、宛から攻めて狙うよう進言するよう考えていた。 「劉表殿、今宵もこのような宴に及び頂きありがたく思います」 「今日は、各方々から、名士が来客として居るからな。大いに楽しんでおくれ」 「ありがたきお言葉。しかし、悲しきこともあります」 「劉備殿、どうしました」 「荊州に来る前まで、私は戦場を駆け巡り馬に跨り、野に寝て、手には常に剣を持っておりました。しかし、今となっては、腿の肉は太り、手も柔らかくなっております。それを憂いているのです」 「おお、平和で良いことではないか」 「曹操が、自ら烏桓を討つため北上したとのこと。この機を狙い、宛と許都を討ちましょう、この劉備、先鋒をかって出ます」 「劉備殿、それはできん。曹操に討たれた高幹も荊州に落ち延びる予定だったのだが、曹操にあっという間に平定された。新野と樊城、そして襄陽は、北からの猛攻に拠点。なるべく籠城して備えましょう」 劉表は進言を退け、外に目を向けるようには動かなかった。劉備は、落胆し、 「(世継ぎの件と言い、曹操の対策と言い、決断力に乏しく荊州は近く不安である)」  と悟った。諸葛亮にもこの事を話し、江夏にいる劉表の長男劉埼とも連携を取るため連絡を密にした。 この年とうとう曹操は、白狼山にて烏桓と袁家残党二十数万人を降伏させ、袁紹の子袁尚・袁煕を滅ぼした。このため、幽州を平定したことになり黄河の北一帯を統一した。 二〇八年、北の脅威が無くなった曹操が、荊州に侵攻を開始する号令を出した。その時、劉表は曹操が荊州入りする直前に病死してしまい、荊州はとうとう家督争いの渦中に入ってしまうという危機的状況となった。 蔡瑁が軍権を握っており、世継ぎに劉琮を担ぎ上げたため、劉琦は命を狙われることになった。劉表の葬儀にも面会ができず、悲しみに暮れ、江夏で病気を発症してしまった。劉備は、劉埼の家督継承を望んでいた。そのことから、蔡瑁一味に狙われることとなった挙句に、劉琮は曹操に対抗せず、降伏してしまったため、劉備軍は曹操にも狙われることになった。 諸葛亮は、劉備に全将を集め軍議を開くことを進言した。新野宮廷、急遽の軍議では、今後の動向を決める最重要の会議が開かれた。 「孔明よ、今後はいかがしたら良いだろう」 「はい、劉琮は暗愚で弱輩、蔡瑁は低能です。我々の軍は今、ある程度膨れ上がっており、襄陽を攻め、城を取り拠点にするのが良いかと」 「それが良い!」  戦を好む張飛は、一早く同意したが、劉備が諫めた。 「それはできない。劉表殿には、多大な恩義がある。その息子を攻撃することは、不義にあたる。話合いに向かおう」  諸葛亮は、溜息をつき、 「わかりました。では、趙雲と張飛を付き人として兵百ほどを連れてください。万が一と言うこともありますので」  劉備は、襄陽城へ向かい、他は江陵へ向かい途中落ち合うこととした。劉備は、襄陽の門前で訴えたが、劉琮は一向に出て来ず、話し合いは拒否され、蔡瑁が軍を纏めたと報告があったため、劉備は兵を退き、一度江陵へと退避することとなった。  襄陽や新野では、劉備が落ち延びることを聞きつけた民衆や、下級役人、名士が劉備に帰順し従うと乞い、劉備は、十万の大軍を引き連れ南下することになった。  江陵までのまだ数里行軍したところ、劉備は諸葛亮に追いついた。諸葛亮は、劉備が引き連れている民衆を見て、 「劉備殿、民がいるおかげで行軍がかなり遅くなっております。殿だけでも早馬で江陵へ向かってください」 「私を信頼し付いてきてくれている、民や名士を裏切り、独り逃げることはできん」  関羽も続き、 「我が兄者は、君子たる仁の持ち主なのだ。だから、人を見捨てはしない」  諸葛亮は、目をつぶり、 「……。分かりました。劉備殿が今まで何故に危機を潜り抜けても生き不死鳥のようにまた羽ばたけるのかが分かった気がします。しかし、危険は迫っています」 「先生、いかがしたらよろしいでしょうか」  その時、斥候が急使でやってきた。
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