第十話 長坂破の戦い

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 「曹操軍が襄陽に入り、劉琮は降伏。早馬で曹純と文聘を派遣し江陵に五千の兵で向かています。最後尾の民と殿が、曹操軍及び荊州兵に討たれています!」 「劉備殿、とうとう江陵も危ういです。このまま江夏の劉埼殿を頼りましょう、そして、独立勢力としている豪族、呉巨を頼るのです」 「わかった、張飛と趙雲、殿を頼む。なるべく民を引き連れ、早足で行くぞ!」 「御意!」  諸葛亮が関羽に、 「関将軍、これは劉備殿、皆の一命に関わることです。関羽殿は、江夏に早馬でかけ、劉埼殿に援軍を依頼してください。うまくいけば、漢津から船で逃げれるでしょう」 「私も劉兄の傍で、曹操軍から守ることが大事では」 「いえ、関羽将軍が乗る赤兎馬は、一日に千里走る名馬。他の者には頼めないのです。皆の一生が掛かってます。今、行きなされ!」 「ぎ、御意」  関羽は足早に駆けて行った。廖化は、関羽を見送り、諸葛亮が廖化を見ていった。 「廖化、お主が居て良かった…… 頼みごとがある」 「はっ!何なりと」 「其方、名士の縁戚と知り合いが荊州は多いと聞く。この状況を打開するには、人手と船がいる。船を持っている知り合いを頼り、江夏より漢津に多くの人が乗れるよう船を借り受けて欲しい」 「親戚に、廖立と言うものがおり、船を持っているとの話。今すぐ武陵へ行き、話を付けてきます」 廖化は、休まずに馬を走らせ、走れなくなった馬は現地で捨て、町で借り受けながらあっという間に武陵の廖立宅に行った。入るや否や、話は結論だけにし、頭を打ち付け懇願した。 「廖化、立て。何も言うな、廖化のその首を借りで船五十隻と操縦手百人用意しよう。その命を懸けるだけの主であるのだな」 「もちろんです、かたじけない!」  廖化は、夏口の船場より廖立の船を集め、関羽と劉埼と落ち合った。 「廖化よ、この船は?」 「我が親戚筋に当たる、廖立と言う者が我が首と引き換えに貸してくれたもの。どうかお使いください」  劉琦は、涙ながらに、 「廖化殿…… 主のためにそこまでできるとは。真の忠義のお方だ」 「廖化、お前は、我腹心の中でも信と忠に長けている者。お前が居て良かった。さあ、行こう!」  長江を登り、漢津を目指した関羽と廖化、劉琦であった。  その頃、曹操の追手に苦慮していた劉備は、後方にいる民衆を大半殺害された。殿を任されていた趙雲は、死地をくぐり劉備の息子劉禅を助けたが、甘夫人は井戸に身を投げ失った。単騎曹操軍の中を割って入り、南東を目指した。殿を任されていたもう一人の張飛は、曹操の追手を食い止めるため、河の前で仁王立ちし、威嚇した。 その豪気のおかげで、曹操軍を長坂橋で足止めし、何とか、民の半分は漢津近くに進んだ。劉備が遠く、船着き場を確認し、 「孔明よ、漢津が見えたぞ」 「殿、これで助かります」  そう思ったその時、後方から、趙雲と張飛がやってきた。 「殿、ご子息が……」  懐から劉禅を出す趙雲に、劉備は涙し、 「子は産めばいいが、勇将は得難いものだ。ここで死なせるところだった」  両将の無事を確認したが、張飛が、 「近く曹操がやって来る。兄者は早く船場へ」  劉備は、急いで船場へと言った。九死に一生を得た劉備は、廖化が手配した船で、関羽等と落ち合い江夏へと向かうこととなった。劉備を追っていた文聘や曹純は、悔しそうに船を見つめた。 「劉備が行ってしまった…… 殿に何と言おう。仕方ない、乗り遅れた劉備軍と民を斬る!」  その頃、呉より劉表の弔いのため、魯粛が漢津に着き襄陽へ向かおうとしていた。 「龐統の言っていた劉表の一件、曹操は行動が速かった。早く手を打たねば」  魯粛は、呉の重鎮で政治家である。この度、龐統を呉に取り込み、策を練っていた。その策は、孫劉同盟であった。曹操に降伏しようとする家臣が呉には多く出る。それは、孫家の存亡に関わることだ。曹操に対抗するには、同盟する軍を多く見つける必要があった。劉備軍は、少数だが精鋭で、荊州に来た目的も、劉備と関係を結ぶことも一つであった。 荊州に着いたが、民衆が流民となって彷徨っている。目の前の出来事に、驚いていた。何がどうなっているのか、事前情報も無かった。どうしたかと近くにいる将に声をかけた。  魯粛が声をかけた者は劉埼であり、一部始終を話した。 「それは、劉備殿は不憫であった。甘寧、手助けし、江夏へ逃げるのを補佐しよう」  劉備と共に江夏へと船で向かった魯粛だった。危機を脱した劉備に、魯粛と言う好機もまた偶然引き寄せたことになった。  曹操軍は、漢津近くの文聘が、張飛と趙雲と小競り合いをしたが、張飛の後方から、猛将が現れ、文聘の兵十数人を一気にぶった斬った。 「文聘よ、この顔を忘れたか」 「か、甘寧!なぜそこに…… これは、いかん。退却だ!」  殿の張飛と趙雲は、これで助かり、最後の民を乗せ江夏へと船で退却した。 「あの猛将のおかげで助かった者だな、趙雲よ」 「ああ、しかし、あの将は呉の将だった。なぜ、あそこにいたのだろう」  命拾いした劉備軍とその将達は、今後、大きな戦ののちに事態は好転することになった。
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