第十一話 孫劉同盟

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 龐統と廖立の対局が始まった。戦略眼の鳳雛と知略の火竜と言ったところか。全く半日たっても勝負がつかない。 「廖化は、その対極をずっと見ていたが、一手一手が正攻法と奇策の合混じった、お互い一手指し間違えれば負ける状況であった」  夜、酒を飲みながら龐統が指した一手は、廖立にとって好機を作り、王に襲いかかる手を繰り返した。 「鳳雛、いかがか?」 「ぐぬぬ……」  龐統は、じっと台を見つめて、一手を指す手が遅くなった。ついに、駒を動かそうと、手を動かしたとき、廖立の顔が綻んだ。龐統は、とっさに手を変え、奇襲をかけた。 「何と!」 「お主は、知略はあるが顔に出る、しかも、口から全てが出てしまう。軍師として致命的だ」  廖立の基盤上の駒はことごとく破られ、決定的王手を喰らい、敗北した。 「負けました……」 「廖化、帰るぞ」 「龐統殿……。御意」  廖立が、悔しそうに、 「廖化、その首は繋がった。今後も縁戚として親しく来てくれ。劉備殿にくれぐれもよろしく伝えて頂きたい」 「もちろんです。廖立殿、ありがたく」  廖化は、龐統と二人邸宅を後にした。龐統は、諸葛亮あてに手紙をと懐から出し廖化へ渡した。 「これから、魏と呉が、稀代類を見ない大戦争をすることになる。某は、実は、呉の軍師として魯粛殿の配下として仕官している。これから、魏に渡り、偽装仕官をする」 「えっ!士元殿、呉の配下なのですか?そして、魏に仕官するなんて、何故ですか」 「これも魏を破るための偽仕官だ。孔明が魏に対抗できるよう、計を巡らすのだよ。まだ、孔明も俺が呉の配下だとは知らないだろうがな、ではこれは内密に」  龐統は、早馬で、北へと向かった。廖化は、江夏へと急いだ。  二〇八年冬、呉の魏降伏派を説き伏せ、諸葛亮が周瑜と計略を練っていた。その中、諸葛亮は、周瑜に命を狙われるという災難に会っていた。魯粛の機転のおかげで命を狙われながらも呉を動かすことに成功した。周瑜と諸葛亮は、魏の水軍を共に火責めで一網打尽にすることで合意した。 諸葛亮は、江夏に一度戻り、決戦の日、劉備軍の動きを確認し、指示を出した。長江での曹操水軍五十万という。呉の水軍は、おおよそ三万以下、劉備軍を合わせても五万程度か。劉備軍は、曹操軍の長江から北への退路を守る役割を確認した。趙雲、張飛、劉備本体三つに分け、それぞれ、烏林、華容道、江陵城前に配置する計画であった。 「私は、数日後、呉へ再度赴く。期日が来たら、各々配置してくれ」  諸葛亮の号令に、皆、敬礼した。 「軍師殿」  脇から声が聞こえた。声の主は、関羽であった。 「軍師殿は、いつも某の事をお忘れではないですか。この関羽、戦場で呼ばれなかったことがありません、どこに出向きましょうか」 「関羽将軍、忘れているわけではなかったのですが…… 些か、計を巡らすには、問題が」 「武神と呼ばれるこの関羽に、何か問題がありましょうか。どこの死地でも赴きますゆえご命令を」  諸葛亮は、少々沈黙し、 「関将軍は、以前、曹操の軍に身を投じ、例を見ない厚遇を受けたというではありませんか。しかも、恩を受けながらも、劉備様のところへ戻ることを許された身。多大な、曹操への恩もありましょう。この度は、必ず曹操を仕留めねばなりません。関将軍が、情に流され逃がすという不安があります。関将軍は、この度は、ゆるりと、自宅で休まれてください」  関羽の赤い顔が、より赤くなり、額に血管が浮き出るのが分かった。 「情に流されることは無い、その時は軍律により処断してくだされ!」 「わかりました。そこまで言うのならば。華容道の北西、最後の追撃となります。そこに待機してくだされ。それと、戦の日まで、廖化を借り受けてもよろしいでしょうか」 「御意」  関羽は、足音を立てながら宮廷から去っていった。残された廖化は、 「廖化よ、これから呉に行くが、将と悟られぬよう、下人に紛れ付いてきてくれ。私の命が狙われるであろう時の護衛と、計の手足となってもらう」 「そ、某でよろしいのですか?」 「趙雲は、呉から脱出する際に、船で待機する役目を言いつかせた。この役目、後はお主しか頼れない」 「ぎ、御意……」  諸葛亮が、出立の準備を始めたため、廖化も宮廷を出て、準備をしようとした。その時、劉備に声をかけられた。 「廖化よ、少し時間はあるか」 「はっ。殿、いかがいたしました」  椅子に腰を掛けろと手で指示されたので、廖化は椅子に腰かけ、劉備も座った。劉備と対面で話をするなど初めてである。
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