第十一話 孫劉同盟

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 「廖化よ、我が義兄弟関羽を支え、和を持ち周囲を統率し、献身的な行動をしてくれているのは知っている。そして、この度の孔明と呉訪問は、危険な旅となろう」 「この命と引き換えに、軍師殿をお守り致す」 「ああ、お主は、必ずやってくれると信じているぞ。お主は、この某と同じ気質を持っている」  廖化は、驚いた。まさか、漢の末裔で天下に名を轟かせる劉備と自分が同じはずはない。 「いえ、そんな買い被りです。某と殿は、出自から、血筋から違いすぎます」 「そうではない、廖化よ。お前は、それなりに武があり、軍略も心得ている。そして、主に忠実で行動も早く正確で、真面目で誠実である」 「はっ。もったいないお言葉」 「某は、漢の末裔にして漢に対し忠実で誠実な行動を心がけている。関羽と張飛と出会い、義勇軍を率いたころは、武も多少自信があり、軍略にも心得ていて、義勇軍の兵などゴロツキの集まりだった」  廖化は、話に聞き入った。劉備は、茶を飲み続けた。 「志こそ大きくあるが、見よ、何も支配する領地も無く、成し遂げておらん。お主も、志は、天下の英雄の右腕だろう。お主の方が、目的は達しているぞ」 「は、恐縮です」 「廖化よ、我々は、関羽や張飛のような武力は無く、諸葛亮のような鬼才も無い。曹操や孫権のように統率力と将兵も持たない。だが、皆に負けないところがある」 「それは何ですか?」 「皆に人として公平に接する『仁』。そして、主に対して誠実である『忠信』。秩序を守り主を守る『義』だ。これは、儒教の教えでも大事なものであり、なかなか人の心は、分かっていても、これらを実行するのが難しい」 「劉備殿、勿体ないお言葉」 「我が側近、趙雲もお主と似ている。かなり武に長けているが、心は控えめであり義と忠に厚い。趙雲は、某よりも年長であるが、良く尽くしてくれる。趙雲は、お主より引退も早いだろう。彼に何かあれば、廖化よ、趙雲の役目をお主に任せようと思っている」 「ははー」  突然の話に、驚きを隠せないまま、宮廷を後にした。馬、食料、下人を準備し、諸葛亮を待った。暫くして、諸葛亮と趙雲が現れ、 「では、趙雲、十二月二十日、東南の風が吹いたら長江の樊口近くの小さな船着場から逃げるから、よろしく頼む」  趙雲は頷き、漁夫の衣装に身をまとい、船に乗った。廖化も下人の恰好をし、十人ほどの下人に混ざり共に出発した。  半日ほどかかり、柴桑の港に着いた。そこには、魯粛が待っており、呉軍の水軍拠点となる陣があり、周瑜や呉の将軍が集合していた。 「孔明殿、ようこそ呉に帰られた」 「我が劉備軍も万全に準備をいたしました。周瑜殿、魯粛殿決戦は間もなくです。よく話し合いましょう」  陣営に入り、周瑜を中心に三人は椅子に座った。 「先日、同郷の蒋幹子翼という、曹操の文官をしている男が来て、降れと言ってきやがった。孫家の忠誠を語ってやったら、何も言わず帰ったぞ」  自信満々の周瑜に、諸葛亮が答えた。 「そうですか、これで曹操も周瑜殿を引き抜こうなどとは思わないでしょう。私も、早速一計を敷いておきました」 「それは、どのような計だ」 「はい、我友人で鳳雛と言われる軍師、龐統を、曹操軍に仕官させました」  魯粛は、顔色を変え、声を荒げながら、 「こ、孔明殿、そんな重要な人物を魏に易々と仕官させるなど、どうしてですか?」  と言った。魯粛も、龐統の偽工作は寝耳に水だったようだ。内密にしていた自分の配下が諸葛亮により動かされるのは、心外であった。諸葛亮は、落ち着いた表情で、 「魯粛殿、今、一計と言ったはずです。偽の仕官で、こちら側に有利に働くように動いてもらっているわけです」  周瑜が、にこやかな中に、厳しい目をした表情を見せ、 「さすが、孔明殿。知略も秀でいながら、逸材の交流もある。まさに、天才と言える」  周瑜が、妙におだてたことに、諸葛亮は違和感を感じて、身の危険を察知した。周瑜は、 「実は、孔明殿、曹操水軍を火攻めするに、少々足りない品があるのだが、ぜひ、それを知略と人材の伝を使い、仕入れて欲しいのだが」 「御意、それは何でしょうか」 「矢だ。あの大軍に火矢を射るには、相当の数がいるのだが、呉には、南方辺境異民族との争いもあったため、品を切らしているのだ。五日ほどで調達できないだろうか」  魯粛は、焦った様子を見せ、 「周都督、五日とは、あまりにも急では」  諸葛亮が魯粛の言葉を遮ると、 「そうですか、良いでしょう。では、船をお貸しください。人も十数名ほど、お貸し下されば三日で用意できます」 「三日だと!フン…… まさか、そんな期日でできるわけがない。できなければ、軍律に基づき、処罰を受けるが、よいか孔明殿」 「よろしいでしょう、では、早速取り掛かる故、お暇します」  陣営を去る孔明に、魯粛が声をかけ止めた。
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