第十一話 孫劉同盟

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 「孔明殿!なぜあんな、できない約束を」 「魯粛殿、あれは、周瑜殿が私を陥れようとしている計でしょう。わかります」 「知っているなら、何故?」 「十万本の矢、揃える策はあります。そろそろ、曹操軍が荊州を南進し、烏林の河岸沿いに来た頃でしょう。準備にかかります。大丈夫です、ま、見ていてください」  笑う諸葛亮に、呆れた魯粛であった。  廖化は、諸葛亮の借り住まいの庭で待機をしていた。諸葛亮が帰って来るなり、急ぎの用事を頼まれた。 「廖化よ、お主と借りた下人十数名で、お主の手勢数名と十艘の小船に藁を積み、中に鉄の盾で守り、人が入れるように細工してくれ」 「はっ。私は、奇襲をかけるのでしょうか」  諸葛亮は、首を横に振り、 「敵に矢を射らせるだけでよい。明日は深い霧となる。明け方に烏林河岸近くまで行けるよう夏口から乗り、霧の中目立つように漕いで行け。敵の矢を受け一刻したら、攻撃せず戻るように」 「それは、何故なんでしょう」  理解に苦しむ廖化であったが、諸葛亮が、 「帰ってくれば、分かることだ。兎に角、かなり矢の雨を喰らうことになるから、肝の据わった人選で行ってくるのだ」  廖化は、馬泰、熊、曜のみを連れ、暗い中、船に下人と配下を分け烏林へ旅立った。 「廖化殿、いったい何をさせるんだろう、うちの軍師様は」  馬泰が、頭を捻って言った。 「さぁ…… 見当もつかない」 「俺たち、悪いことしてないよなぁ、もしかして討ち死にさせる気か?」  曜が不安げに言うと、熊が止めろと叱責した。 明け方、ほぼ前が見えないくらいの霧の中、河岸の曹操軍の陣営が、薄っすら見えてきた。 「よし、軍旗を掲げ銅鑼を鳴らすのだ」  ジャーンジャーン、と、霧の中から音がしたため、曹操軍は慌てふためき、長江の様子を見た。薄暗く船が見え、敵の船だと分かるや否や、弓矢の応戦を開始した。 「来たな!藁の中に籠れ!盾で身を守るのだ」  廖化の私兵、下人たちは、皆、身をかがめながら、矢を避けれるよう、盾で身を守りながら待機した。ある程度の弓を喰らった後、退却の銅鑼を鳴らし、引き返した。 「ふぅ…… 危険な行軍だったが、これは何だったのだろう。船は、矢だらけだ」 矢の重みで、水位ギリギリまで沈んでいる船は、ゆっくりと進んだ。 「この矢は、これからの戦で使うのではないだろうか」  馬泰が言うと、熊が、 「これを使うのか?呉は、弓矢も作れないのかよ」  廖化は、笑った。  諸葛亮が、夏口の船着き場に待機していた。廖化は帰還し、船を降りた。 「よし、廖化よよくやった。さて、呉の方々、船の藁に刺さった矢を早速数えてください」  呉の官吏たちも驚いたが、魯粛はより驚きと感心した顔で諸葛亮を見ていた。半日後、矢の数は数え終わり、十万本よりも多く得ることができた。 「魯粛殿、曹操軍より、矢を奪うことができました。喜ばしいことです。周都督に報告を」 「何とあなたは、鬼才の持ち主だ…… 恐れいった」  その夜、魯粛より周瑜に矢の調達を諸葛亮ができた旨を報告された。周瑜は、悔しさの余り、顔を赤くし、汗をかいていた。 「周都督、あまり無理をなさらずに……」 「魯粛よ、あの化け物は呉にとって、後の患いになるだろう。早く殺さねば!」  周瑜は、口から血を吐き、もんどりうって倒れた。魯粛は、側近を集め、一時、陣営は騒然となった。  廖化は、次の計略実行するため、諸葛亮の借り住まいの陣舎へと入っていた。 「あの弓矢は、周瑜に注文されたのですね」 「そうだ、十万本を五日で用意しろなど、無理なことを言って来たので、策を用いたのだ」  廖化は、頷いた。馬泰が、弓矢の使い道を当てたのは、流石と思った。 「あと数日、赤壁にて曹操軍と孫劉連合の海戦が切って落とされる。その前に、私は、周瑜に命を狙われるだろう」 「軍師殿!某が、身を呈して守ります」 「廖化、一計を預ける、南屏山を下山したところに、農民の恰好をし牛舎で待機してくれ」 「御意」  周瑜が、諸葛亮を呼び出したのは、次の日の朝であった。
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