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二年後の一九八年、ある日。廖淳は、兵役に志願することとした。荊州を離れ、華北の地に向かう決意をした。
「龐昂殿、今までありがとうございました。一四才となり、いっぱしの兵として、戦えるようになりました」
龐昂の妻が、涙を流し、
「我が子のように育てたつもりよ、寂しくなるわ」
「母上。拾われた私を立派に育てていただき感謝いたします」
龐昂が、誇らしげに言った。
「廖淳、逞しくなったものだな。龐徳公にも挨拶をして、行くが良い」
邸宅で、龐徳公に会い、挨拶をした。龐徳公は、上機嫌で廖淳に助言した。
「これからは、今までにない辛い人生もあるだろう。茨の道かもしれない。しかし、自分の信念を行くのだ」
「信念ですか……」
「主とするならば、大義があり、万民のために国を動かす者のために戦うのだ。その主は、配下である将を見れば分かる」
配下の将を見れば分かる、つまりは、主への忠義と行動の実直さを求められる、そう見られる将になるべきなのだと悟った。
「心して、修練に励みたいと思います」
龐徳公の邸宅を離れる前に、蘭がいた。
「どこに行くの?」
「え、どこって、兵士に志願するんだ。徐州に行くつもりだよ」
「寂しくなるな」
「そ、そう?」
「私、来年、嫁に行くことになったの。蔡瑁様の従弟だそうよ」
「それは、名家だな。良かったじゃないか。俺みたいに、下僕じゃない」
蘭は、涙ぐんで、
「何もわかってないのね。下僕でも、好きな人と、一緒になりたいのが女よ」
蘭は、足早に去っていった。
廖淳は、馬兄弟へ別れの言葉を言いに、馬邸宅を訪ねた。
「元倹、寂しくなる。我が兄弟は、いつでもお前を兄弟だと思っているからな」
「伯常、仲常、お前たちは、官吏となり太守となり、その家柄と才能で必ず栄光を手にするだろう、頼る時もあるやもしれん。その時は、頼むぞ。さらば」
廖淳は、旅立った。
一月ほどの旅を経て、徐州へと着いた。ここは、今、曹操と呂布、劉備が戦をしており、混沌としている地域であった。まずは、傭兵を集めている場所へと行かなければ。酒場や官吏へと回って、徴兵をしているところを探し回った。酒場で、身の丈の大きい剛腕な丈夫らしき者に声をかけた。
「あのう、そこの大丈夫。徴兵をしているところは知りませぬか」
ギロリと厳しい目で見られた廖淳は、背中に冷や汗が流れた。男は、振り返るなり、廖淳の目の前で立ち、その大きな身の丈で覆いかぶさるかのようにして顔を見た。
「小僧、この俺に声をかけるなど、いい度胸だ」
あまりの大きさに、廖淳は驚き、動けなくなったが、大丈夫が廖淳に酒盃を持たせ、飲めと上機嫌に言った。
「我が名は、呂布将軍の配下、高順。どこの小僧だ?」
「俺は、廖淳。荊州襄陽から、傭兵になるために来たのだ。高順殿、其方は、あの呂布将軍の配下と言いましたね」
「おお、天下に轟く、人中に呂布、馬中に赤兎と言われるのが、我が主である」
廖淳は、胸が高鳴った。高順に、興奮気味に、
「高順殿、俺は、小さいころ、呂将軍を見て、彼の配下として戦いたいと思ったのです!どうか、兵士として参軍させてください!」
高順は、驚いた顔をしていたが、
「小僧、いや、廖淳。兵士になるには、剣を使えねばならぬ。いくぞ!」
高順は、手元にあった、木片を刀代わりに掴み、廖淳は木刀を構えた。
「行くぞ!」
廖淳は、素早く高順に挑み、高順も負けじと攻撃を受けた。
「こ奴!なかなかやりおる…… 手を抜くとやられるぞ」
高順が、力任せに廖淳を、薙ぎ払い、廖淳は力負けして飛ばされたが、直ぐに反撃に出た。廖淳は、下段を攻め、高順が木辺で受け護ったが、廖淳の刃力も強く、高順の持つ木辺は、粉砕してしまった。
「これは…… 小僧、やりおる」
廖淳は、明らかに喜びの表情をし、
「どうか、配下に」
「ぶははは。もちろんだ、廖淳!」
この日、呂布軍の兵士として、参軍することとなった。
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