エピローグ~side慎太郎

4/5
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
俺自身は、若菜との関係を進展させることを、いったん諦めつつある。 三年かけて、最悪の断絶状態からここまで戻した。 大学は別だから、今までみたいに毎日顔を合わせることはなくなる。 今だって、もう毎日学校には行っていないから、会えない日も増えてきているけど、それでも俺たちは幼なじみでお隣さんだ。 俺たちにとって、高校卒業は大したことじゃない。 明日も明後日も、窓を開ければ顔が見えるところに若菜はいる。 時間をかけて、一歩ずつ関係を改善していけたらって思うんだ。 自分自身がそんな状態なのに、健太には動くことを求めて陰でこそこそと画策しているわけで、本当は人のことなんか言えやしない。 卒業前に、ナーバスになってんのかな。 俺の気持ちに逆らうように、都立公園の桜はもう色づき始めている。 前途洋々…のはずだ。 第一志望校に合格して、来月には大学生活が始まる。 この先の自分の人生を、自分の努力次第でいかようにも切り拓いていける。 希望しかない。 隣に大切な人がいてくれたら…どんなに幸せだろう。 いや、物理的にはいま隣にいるんだけど。 でも、その人にはその人の気持ちがあって。俺は、その気持ちを完全には理解することができない。 どうすれば彼女が俺の方を見てくれるのか、何をすればいいのかがわからない。 もういいや…って、投げ出してしまいたくなることもある。 でも俺たちはまだまだ、終わらない。二楽章が終わった、くらいのところだろ。 若菜は、本当に嫌だったらこうして俺の隣に戻ることは絶対にしない。 俺が多少強引に窓を開けさせたことから、関係改善の道は始まったと思ってるけど、それだって若菜には拒む事由があったんだ。 川北のためとはいえ、こうして俺と二人で行動することも避けなくなった。 部のみんなが俺たちのことを見守ってくれていたから、というのは大きいけれど、若菜の心の傷は…少しずつ癒えていると信じたい。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!