序章

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序章

 申し訳のないことですわ、司祭さま。年が巡り祭りの日がやってきますその度に、こうしてわたくしの話に耳を傾けてくださるのですもの。もう十七、十八、……いえ、ちょうど二十年になりますわね。けれど、お定まりの文句のようですが、心の中の傷というのはそう易々と消えてなくなるものではございません。―ええ、ええ、おっしゃる通りでございますわ。神がいつもわたくしたちを見守ってくださいます。   窓の外をご覧になって。日が暮れてきたようです。こんなふうですと夏もほんとうに盛りを過ぎたという気がいたしますわね。司祭様の子供の時分も、祭りの日はこんなに美しい夕焼けが見られましたの?…ええ、わたくしも。けれど少女のころは、どうしても感傷的になりまして寂しさを抑えることができませんでした。なぜって祭りが終わってしまえば、楽しみの日々にお別れをして夏の休暇が終わるのですもの。  あら、あれは子どもたちの踊りの輪。広場の中央にいるのは、いっとうダンスの好きなあの娘たちじゃございませんこと。マルグリットにアンドレに…ダンスも結構なことだけれど、教理問答にももう少し熱を入れてもらわないようではしかたがないって、誰かが言っておりましたわよ。  けれど今日は祭りの日。口うるさくしても無粋なだけですわね。わたくしだって娘のころには、一人前のおめかしで浮かれるのが常でしたのよ。それに…妹も。  あの時、妹は十三でした。少し発育が悪いせいで、みられてせいぜい十二でございましたけれど。  ちょうど二十年前、妹はいなくなったのです。  ―年ごとにひたすらの繰り返し、飽き飽きされていらっしゃいますか?そんなことは断じてない…と。司祭様はやはりお優しい方ですわね。でもよいのです。今日はわたくし、通り一遍の悲しい思い出話をお聞かせするつもりは毛頭ございませんから。
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