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「じゃあ俺がピアノ弾くから柚希はドラムやってよ! それなら問題ないよね!」
「……はあ?」
これでもかというほど眉をひそめた柚希に対して、光はどうだ、と言わんばかりの得意げな表情を浮かべている。
そんな光の態度にもう一度大きく溜め息を吐いて、不機嫌な表情を前面に出しながら、柚希は自分の肩を掴んでいる手を払い除けた。急に手を払われて一瞬驚いた顔をした光が、すぐに笑顔を貼りつけ、どうしたの? と柚希に問いかける。
「……ピアノとドラムだけで何ができんだよ。ギターもベースもボーカルもいねえのに」
「あれ、知らない? ピアノとドラムだけで活動してるインストバンド」
まあ今回はボーカルも欲しいんだけどそれはまた後でかな、と顎に手を当てながら光が言う。その言葉の節々から、楽し気な様子が伝わってくる程乗り気のようだ。
しかし、柚希は不機嫌な表情を崩さず、チッ、と舌打ちをした。
「んなこと知るか。大体何でそんな固執すんだよ、ほっときゃいいだろ」
「いい曲だから皆に聞いてほしいんだって言ったでしょ?」
光がそういった瞬間、柚希が勢い良く立ち上がって光の胸倉を掴んだ。
「それはお前の勝手な自論だろうが。俺を巻き込むな。やるなら一人でやってろ」
目を丸くする光に苛立ちを隠さず低い声でそう言い放ち、光の胸倉を押しながら手を放して、そのまま柚希は荒々しく教室から出ていった。
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