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これまでの経験から朝一で屋上へ向かったものの、目的の人物は待てど暮らせど姿を見せず、ついに午前中の授業時間のほとんどを屋上で費やした葛西は、肩を落としながらとぼとぼと廊下を歩いていた。
昨日のあの怒り方では絶対に光のいる教室へは向かわない、というこれまでの経験からの判断のもと、そうなると昨日と同じく屋上に来ると葛西は踏んだのだが、まず学校に来ていない可能性があることに、昼休みのチャイムが鳴った瞬間思い至った。その上、朝早く出てきたせいかいつもより腹の空き具合が酷く、屋上で待つのは諦めて、食堂で腹を満たして、午後からの授業を受けるべく教室へ向かっている最中だった。
「うー……めっちゃ時間無駄にした気分……」
ぼそぼそとそう呟きながら辿り着いた教室へ足を踏み入れる。そして自分の席へと目を向けると、その向こう側にずっと待ち続けていた人物の姿を認めた。
「まっすー!!」
驚きのあまり声量の制御がままならず、一度にクラス中からの視線を集めるが、葛西はそれら全てを意に介すことなく、一直線に柚希に向かって走り出す。
大声で名前を呼ばれた柚希は、肘で支えている顔を動かさないように窓の外に向けていた視線を葛西に移して、五月蝿そうに顔を少し歪めてまた窓の外へ視線を戻した。
その直後に葛西によって与えられた衝撃によって、柚希の手から顎がずり落ちる。
「ってえな!!」
「まっすーここにいたの!? 俺ずっと屋上で待ってたのに!」
柚希の抗議の声を無視して、勢い良く抱き付いた葛西が泣きそうな顔で柚希を見上げて問いかけた。
その顔を暫し眺めたかと思うと、柚希は前の授業の内容が残る黒板へ目を移す。
「気持ち良さそうにぐーすか寝てたな、お前」
「え、なにやっぱまっすー屋上来てんじゃん!」
「俺の寝る場所奪いやがって」
「起こしてくれたら良かったのにー!」
むくれた顔でうりうりと頭を柚希の腕に擦り付ける葛西。柚希は嫌がる素振りを見せたものの、振り払いはしなかった。
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