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いつもなら怒鳴りながら乱暴に振り払うはずの柚希がされるがままになっていることに気付き、葛西は腕から顔を離して首を傾げた。
「まっすー、具合でも悪い?」
「は? なんでだよ」
「だって怒んねえもん……」
「お前怒られたいのかよ?」
じとりとした目で自分を見てそう言う柚希に、葛西は慌てて頭をぶんぶんと横に振る。そんな葛西から目を離して、柚希ははあ、と溜め息を吐いた。
「ほんとに具合悪くない?」
柚希の様子が気になって葛西がもう一度問う。
「腹減ってるだけだ」
「あれ、昼まだなの? 俺買ってこようか?」
葛西が柚希から離れ鞄から財布を取り出した瞬間、柚希が突然立ち上がり、葛西の肩に手を置いて耳元で囁く。
「学校終わったら駅前のゲーセン来い」
「え?」
「ちゃんと来いよ」
そう言い残して、柚希は鞄を背負って教室を出ていった。そんな柚希と入れ替わるようにして、教室へ戻ってきた光が葛西の方へ向かってくる。
「あ、こーちゃん……」
「おはよう涼太。……いや、もう昼だからおそよう?」
ははっと笑って挨拶をする光。その笑顔が、昨日見た笑顔よりも幾分か翳っていることに気付き、葛西は通りすぎざまに光のシャツの裾を掴んだ。
「ん、どうしたの?」
違和感の残る笑顔を貼り付けたまま、光が葛西へと問いかける。
「こーちゃん、なんかあった?」
「え?」
「なんか、変な笑顔」
「──……余計なこと、言っちゃったからかな」
光はそう言いながら自分のシャツを掴む手を優しく外し、自分が放った言葉に対する葛西の反応を待たずに、そそくさと自分の席へと座る。
葛西が慌てて光へと疑問を投げかけようと振り向くと、光は既に周りを女子に囲まれて談笑し始めていて、葛西は喉まで出かかった言葉を飲み込むしかなかった。
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