2話

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 ◆ 「あーくそ、やっぱアイツ連れてくんだった」  学校の最寄り駅の目の前にあるゲームセンターに来たものの、特にやりたいこともなく、一人寂しく長椅子に座りながら柚希は溜め息を吐いた。  教室に入ってくる光が視界に入った瞬間、無意識に身体が動いていた。光を避けるように、教室から逃げ出そうと立ち上がっていた。  ただ、そのことを葛西に悟られたくなかった。だから、ただサボっただけに見せるために、葛西に適当な行き先を告げ、光から逃げた。  その適当な行き先のせいで、現在進行形で時間をもて余しているわけだが。  授業が終わるまでどれくらい時間があるのかと、スマートフォンを取り出して確認すると、あと一時間ほど待たなければいけないことを知ってさらに溜め息が出る。 「……それもこれもあいつのせいだ」  そう口にして、いいや違う、と心の中で柚希は自分の言葉を否定した。  自分が思った以上に弱すぎた。少し踏み込まれただけで、動揺して逃げた。  そして、光と話していると湧き上がる醜い嫉妬心。自分の中のこれほどまでに大きな嫉妬心があるとは思いもしなかった。  これ以上このまま光といると、自分が自分でなくなりそうで、柚希は底知れぬ恐怖を感じていた。  嫌な考えを振り払うように頭を左右に振り、横においていた鞄を長椅子の端へと移動させ、それを枕にして寝転ぶ。  周りの控えめなクレーンゲームの音が心地よい子守唄になり、柚希が眠りにつこうとした瞬間、閉じたまぶたの裏が黒くなった。 「こんなとこでオネンネしてるたぁ、呑気なヤツだな」  耳障りな声が頭上からかけられる。不快な笑い声が複数続いたことから、複数人に囲まれているのだろうと予想して、柚希は左目を薄く開けた。  見たことがあるような、ないような。そんな薄い印象しか抱けない、テンプレートな不良スタイルの人間が、五、六人。 「俺ら財布忘れちゃってさぁ。ちょっと恵んでくんねえ?」  柚希の顔の横に立っている金髪のオールバックの不良が、先程かけられたのと同じ声でニタニタと笑いながら言った。  柚希は再び目を閉じて、はあ、と息を吐く。その態度が(かん)(さわ)ったのか、その不良は低く唸った。 「無視してんじゃねぇぞ!」  強く握られた不良の拳が柚希の顔面に吸い込まれる。次の瞬間、ゲーム音に混じって、鈍い打撃音と呻き声が響いた。
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