3話

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 早速お目当ての台の前に辿りついた葛西は、勉強しているときよりも真剣な顔で色んな角度から景品の取り方を模索する。  そんな葛西が景品を取る度、台を変えること十数回。 「お前……そんなにとってどうするつもりだよ」  隣を歩く葛西の両腕にこれでもかと埋もれているぬいぐるみたちを横目で見ながら、柚希は呆れたように問いかけた。 「んーとりあえずは俺ん家のベッド周りのインテリアになるかな!」 「あれにまだ追加する気かよ」  何度か訪れたことのある葛西の部屋の様子を思い出して、柚希は溜め息を吐く。  今でさえ、人がぎりぎり寝れるか寝れないかのスペースしかなかったはずだ。今日獲得した景品たちを置けば、確実に寝るスペースは無くなるだろう。 「可愛いものは正義だよ益岡くん」 「うぜぇ」  心底嫌そうな顔をした柚希に、葛西がいたずらっ子のように、にしし、と笑ったが、その表情はすぐに苦笑へと移り変わった。 「まあ、ほんとは彼女出来たときに格好つけるための練習なんだけどさー」 「出来る気配は微塵もねえけどな」 「それ自分でも悟ってるから改めて言わないで!? 」  凄まじい勢いで首を動かし、横にいる柚希を睨む葛西。その視線から逃げるように余所へと移した視界にあるものが映り込み、柚希の顔が忌々しげに歪められた。  柚希たちから少し離れたところに、光と思わしき人物と柚希たちのクラスメイトの女子二人がいて、何やら幾人かの他校の制服を纏った男たちに詰め寄られている。声は周りのゲーム機の音で邪魔されて柚希の耳には届かなかったが、少なくとも和やかな雰囲気ではないことは確かだ。  葛西も柚希の目線を追ってその光景を目の当たりにしたのか、ぬいぐるみたちを落とさないよう器用にそちらの方向を指差しながら、柚希に問いかけてくる。 「あれ? こーちゃんだよね、あれ」 「……知らねえよ」 「なんかトラブってんのかな……?」 「俺らには関係ねえだろ、いくぞ」  光たちがいるところから遠ざかるように歩を進めた柚希のベルトを、葛西が咄嗟に掴む。  急に動きを止められたせいで前につんのめりかけた柚希が、葛西に文句を言おうと振り返ると、葛西は柚希には目もくれずに不安そうな表情で光たちの方を見ていた。
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