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「おい、何か来んぞ」
気付いた一人のその言葉に、その場にいた全員の目が柚希と葛西に向けられる。
不良たちが怪訝そうな顔をする中、驚いたような顔をする光と女子二人。中でも、光は他の二人よりも一際瞳を大きく開いていた。
「何だ、テメーら」
一番柚希たちに近い所にいた男が、一歩柚希たちへ足を踏み出し、そう問いかける。それに返事することなく、柚希と葛西は集団への距離を一歩一歩詰めていく。
「おい、聞いて──」
更に柚希たちへと近付いて、苛ついた顔で言いかけた男の体が突然真横へ吹っ飛んだ。
本当に突然のことで、暫し沈黙が降りる空間に、今しがた男を吹っ飛ばした右足を地に下ろした柚希が大股で踏み込む。
「こいつらに何か用か」
光たちを顎で指し、柚希が男たちに問い掛けた。
その柚希の言葉に、男たちがハッと我に返る。一人が床に倒れ込んでピクリとも動かない男に駆け寄り、残りの三人は柚希たちをこれでもかと睨みつけた。
「テメー、何してくれてんだよ!!」
「こっちが先に聞いてんだよ。答えろ」
凄みのある声に、声を荒げた男は一瞬たじろいだが、すぐにニヤニヤとした表情を顔に浮かべる。
「女連れてる坊っちゃんがいたから、ちょっとカッコいいとこ見てみたかっただけだよなあ?」
男の言葉に、周囲の奴らがそうそう、と口を揃えた。その返答に、柚希の眉がぴくりと反応し、即座に体を反転させる。
「おい葛西、俺関係ねえじゃねえか」
「あ、そなの?」
後ろで、泣きそうな顔の女子二人に、これ持ってて~、と取った景品たちを手渡していた葛西が、きょとんとした顔で柚希を見る。柚希は苛立ちを隠そうともせず、葛西を鋭い視線で刺す。
「話が違う」
「もしかしたらの話だってば」
両の掌を肩の辺りで天へ向け、首を竦める葛西。悪びれた様子はあまり無さそうだ。
「えっと、話って……?」
驚きで言葉を発せずにいたらしい光が、口を開いて葛西にそう尋ねる。だが、その返答を光が聞く間もなく、柚希の周りから鈍い打撃音と呻き声が発された。
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