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「ち、違うの益岡くん……!」
尚も光に詰め寄ろうとする柚希を、光と一緒にいた女子の一人が慌てて口を挟んだ。あ? と不機嫌な顔で睨まれた女子が、ビクン、と身体を震わせて縮こまる。
「ちょっとまっすー、怖がってんじゃん馬鹿ー」
見かねた葛西が後ろからぽんぽん、とその縮こまっている女子の肩を叩きながら注意した。さすがの柚希も、女子に当たってしまったのは申し訳ないと思い、むすっとした表情で小さくすまん、とだけ口にした。
で、と葛西が女子の顔を覗き込みながら笑顔で問いかける。
「違うって、何が違うの?」
「わ、私たちが藤枝くんを誘ったのっ。ゲーセンで遊ぼうって」
「そんな、絡まれるとか思ってなくてっ」
葛西に顔を覗きこまれた女子が言った後、黙ったままだったもう一人の女子も半泣きになりながら言葉を紡ぐ。女子たちの言葉を聞いて、なるほどね、と葛西は腑に落ちたように二度頷いた。
「ここさ、最近他校の不良共の溜まり場になっちゃってるみたいなんだよねー。だから暫くここに来るのは辞めた方がいいよ」
ね? と葛西に話を振られた柚希が、無言で小さく頷く。ここ最近、他校の新入生がこのゲームセンターに入り浸っているのは、仲間内では周知の事実だった。だからこそ、光も知っていて当然だろうという認識で柚希は詰め寄ったのだが、考えてみれば転校してきてすぐ、しかも喧嘩のけの字もないような光が、そんな情報を仕入れているはずもない。
自分の早とちりに、急に恥ずかしくなって柚希は光から顔を背けた。その頬に、光からの強い視線が刺さる。
「ごめん、柚希。目つけられたときに、すぐに逃げてればよかった」
「……次からそうしろ」
顔を背けたままそう返した柚希に、光は少しだけ口角を上げて頷いた。その直後、「よっし!」という声とともにパァン、と手の鳴る音が響いて、葛西が明るい声を出す。
「じゃあこの話はこれでおーわり! 君たち家どこー? もう時間遅いし危ないから近くまで送ったげる!」
葛西の言葉に女子たちが学校から徒歩圏内にある家の場所を言えば、「俺と方向おんなじ!」と嬉しそうに葛西が言う。ついでに、と聞かれた光は電車通学で、同じく電車通学の柚希が一緒に帰ることになった。
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