3話

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 また明日ー、とゲームセンターの前で葛西と女子二人と別れた柚希と光は、丁度駅に停車していた出発寸前の電車に飛び乗り、七人掛けの長椅子の真ん中へと腰掛けた。 「ったく……何でテメェと一緒に帰んなきゃいけねえんだよ」 「ご迷惑おかけします……」  文句を垂れる柚希の横で、光が申し訳なさそうに肩を竦めながらそう言った。  昼間の様子から、一緒に帰るとなると柚希の機嫌が悪くなると分かっていたのか、光は別に女子ではないのだから一人で帰ると言った。それに柚希が内心安堵していたら、また電車等で絡まれたら大変だから、と葛西が半ば強引に柚希と帰らせたのだ。案の定、柚希は不機嫌さを隠すことも出来ず、光は恐らく肩身の狭い思いをしているようで、柚希の横で借りてきた猫のように体を縮こまらせている。  暫くそのまま無言の時間が過ぎて、沈黙に耐えられなくなったらしい光が、恐る恐るといった様子で口を開いた。 「あ、あのさ、柚希」 「なんだよ」 「……昼間は、ごめん。俺、なんか余計な事言っちゃったみたい」  光が謝罪の言葉を口にすると、柚希は窓の外に向けていた目線を光に移して少しだけ目を見開き、はあ、と溜め息を吐いてまた窓の外へと視線を戻した。 「……みたいってなんだよ」 「いや、何で柚希が怒ってたのか、本当に分かんなくて……。でも俺の言葉が原因なんだろうってことは、想像ついたから」  だから、ごめん。  再度謝る光の言葉を遮るように柚希は「もういい」と少し語気を荒げて言い放つ。二人の間にまた無言の時間が訪れて、今度は柚希から喋り始めた。 「……何でお前はそんなに俺に構うんだ」  昨日から不思議に思っていたこと。  今まで不良には良い意味でも悪い意味でもよく声をかけられてきたが、光のような模範的な優等生というべき生徒になど、声をかけられたことはなかった。勿論、ドラムの腕前を買ってライブに誘ってくる生徒は多数いたが、その中に光のような人物は一人としていなかった。優等生たちから向けられた視線には、常に恐れと共に嫌悪と蔑みの感情が混じっていた。  何故、光と正反対ともいうべき存在の自分に声をかけ、構ってきたのか。  柚希には光の心が全く分からなかった。 「何でって……構っちゃだめなの?」 「お前の方が嫌だろ、俺みたいな不良と絡むなんざ」 「俺は嫌いな人間を構いにいくほどお人好しじゃないよ」  少し驚いた様子を見せた柚希が光へ視線を向けると、光は柔らかい、どこか諦めたような表情にも見える微笑みを浮かべて柚希を見て、こう呟いた。 「俺は、良い子じゃないから」
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