14人が本棚に入れています
本棚に追加
Open
駅の近くから、道外れにあるカフェ。
「Your Word」というカフェがある。
7時に丁度にOpenする。
カランカランと扉の上に掛けてあるベルがなる。
「いらっしゃいませ」
1人目のお客様は、黒いスーツを着てメガネをかけ、見るからに仕事が出来そうで、雰囲気は少し厳しい感じの社会人男性。
初めて来るお客様だ。
「お好きな席へどうぞ」
「ありがとうございます」
その男性は、入り口に近い席に座った。
メニューをとり、何を頼むか悩んでいる…
数分悩んだあと、
「すいません」
男性に呼ばれ、注文を聞きに行く
「はい、メニューお決まりですか?」
「この、卵サンドイッチセットをお願いします。」
そう言って、メニューに載っている写真に指を指す。
「かしこまりました。少々お待ちください」
僕の読みは、当たったようだ。
一見、スーツを着て、メガネをかけ、厳しそうな雰囲気のある男性は、一杯のブラックコーヒーを飲んで、出勤する。まさに憧れの大人のような世界で生きている感じだ。
けど、違う。彼の世界は希望に溢れ、輝いている。濁りがまったくない。
自分を隠そうと、思ってない。
だから、彼は卵サンドイッチセットを選んだ。
しかし、本当に自分を隠そうなんて思っておらずただ、一杯のブラックコーヒーを飲むお客様も勿論おられる。
ただ前に、彼と似たような男性がお店に来ていた。
彼は一杯のブラックコーヒーを飲んで、出勤していった。そして、彼の世界は濁っていた。
わざわざ、苦くて、苦手なブラックコーヒーを飲んで、自分を隠していた。
まさに、ブラックコーヒーを飲んで大人の世界で生きているように見せるために…。
何故、自分を隠すのか…。
僕にそれは分からない。
僕はただ、お客様がどんな世界で生きているのかが、見えるだけだ。
「お待たせしました。卵サンドイッチセットです。」
「ありがとうございます」
テーブルに卵サンドイッチセットを置き、僕はその場を去る。
男性は、黙々と食べている。
「ごちそうさま」
食べ終わった男性は、会計のためレジに方に歩いてくる。
「お会計…550円です。」
「えっと…1000円でお願いします」
「分かりました」
この時、僕は初めてお客様と会話をする。
「あなたの会社は、とても良いところなんでしょうね。あなたの世界は、輝いている。仕事場の後輩や先輩、同僚にも親しまれ、頼りにされてるんでしょうね。」
「……は?」
男性は、何を言っているんだという顔をしている。
「いえ、おつり450円です。」
男性の手のひらにおつりである小銭を置く。
「えっ…あぁ…」
少し戸惑いながらも、男性は小銭を受けとる。
扉に向かう男性を見送るため、自分も扉の方に向かう。
まだ朝のため、お客様はこの方しかいないため、入り口まで見送る。
男性はちらちらと僕を見ながら、扉を開け、外へ出ていった。
「ありがとうございました」
お辞儀をして、男性を見送るため。
男性は軽く会釈した後、たくさんの人が歩いている歩道へと、向かった。
歩道に入った瞬間、男性の輝いた世界は人混みの中に消えていくように、消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!