静かな夕食

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静かな夕食

「随分遅かったじゃない」  家に着いたときにはすっかり日が暮れていた。 「ハナカシスは? それにその格好……」  私をじっと見て母は驚く。あ! ワンピースに着替え忘れてたんだ。 「え? あ、あぁ。そうだった」  すかさずフォリンがバケットを咥えて私の隣に来てくれる。ナイス! けれどエメラルドグリーンのドレスは繊細に輝いていた。 「大丈夫? ぼーっとして」 「ちょっと、おばあちゃん家でのんびりしすぎちゃった。この服は……その、旅売りの人がね、売ってて……」 「あら、そうだったの」  興味なさそうに母は目をそらした。 「うん」 「お金はどうしたの?」  そして、また私を見据える。 「あ、そうだよね! それは、おばあちゃんの薬草? が珍しかったらしくて」  その後どこか行ったことまではバレてしまったが、口を割らない私を見て母が折れた。 「女の子なんだから、人さらいには気をつけなさいよ」 「はーい」  いつものようにフォリンの首をさすると、段々小さくなり、ついには犬ほどの大きさになった。そのまま彼とバケットを抱え、帰宅する。 「もう夕食の準備は出来てるから、着替えちゃいなさい」 「ありがとう」  自室に戻るとすぐに地味な色のワンピースに着替える。 「フォリン、ありがとうね」 「グフン!」  今日は小さくしすぎたのか、しゃがまないとなでられなかった。その仕草にエデンさんのことを思い出す。 「はぁぁ。三年も会ってなかったのになぁ」  フォリンが不思議そうな顔で私を見た。あまりにも間抜けな顔に思わず吹き出す。 「あっははは」  フォリンは怒って黒い鱗を逆立てた。これが本気じゃないのも、わかっているんだけれど。 「ごめんごめん。可愛くって」 「ナタリアー? ご飯冷めちゃうわよ」  母の声が聞こえ、フォリンと共にリビングへ急いだ。階段を降りながら、遠い城を思い浮かべる。エデンさんも今頃夕食なのかな。  食卓には自家製のイチゴジャムがあり、友人の家のお店でもらったであろうパンの切れ端があった。そして頑張って食材を集めただろうクリームスープ。 「夕飯って言ってもこんなものでごめんね」  沈む声に笑いかける。 「私、ロザリーのところのパン大好きなの! バターの香りがするでしょう?」  母はホッとしたように静かに微笑んだ。 「いただきます」  二人と一匹で囲むテーブルは、やけに静かだ。この家に一家の大黒柱はいない。少なくとも私は会ったことがなかった。フォリンはというと、ちびちびとパンを齧ってスープを流し込んでいる。彼ががっついていない姿は久々で、小さくしすぎて良かったかも、と思った。 「ごちそうさま」  フォリンと自分の分の食器をさっと洗い、部屋に戻った。  夕食後も気が付いたらため息をついていて、フォリンは呆れたように小さく火を吹いた。 「どうして、だろうね」  ベッドに横たえながら、フォリンをなでる。黒い鱗たちは普段はこんなにも柔らかい。 「エデン様、いや、エデンさんはどうして王家の人なんだろうね」 「グルふ」 「エデンさん、どこまで本気なんだろう」 「グルルる」 「そんな怖い顔しちゃだめよ。彼が嘘をついてないのは何となく感じているもの」 「グフッ。グルフフフ」 「え? 明日? さすがに図々しいと思われちゃうよ」 「グルッフ!」 「うーん、じゃあ明後日。明日はおばあちゃんに相談したいんだ」 「グおん」  月明かりが差すベッドの上、私はぼんやりと意識を手放した。
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