12人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
それからしばらく会話して、彼はまたクロス・ピースに戻るそうだ。 手を振って見送ったのだけど、彼はドアから廊下に出る前に一度振り向いてこう言った。
「……言葉にしなきゃ分かんねえことってあるけど、でもやっぱ言いにくいことってあるじゃん? だけど、そういうのも手話だったら伝えられるってこと、あると思うんだ。
だから、へこんでんじゃねーぞ! 俺、お前が傍にいといてくんねえと調子出ねえんだから、早く戻ってこいよな!」
言うだけ言って、そのまま廊下を走って行ってしまった。 照れくさかったのだろう。
……一つ、練習していたけど彼に対して出来なかった手話がある。 自分を指し、次いで対面している相手を指す。 そして、
―――片手を甲を上にして軽く丸め、反対の手はそれを撫でるようにクルクル回す―――
そんな思いを、いつか伝えられる日が来るだろうか。 でも、この手話には大切に思う、愛おしく思う、可愛い、なんてそういった意味も含まれていて。
そして自分は、彼がこの上なく大切に自分のことを思ってくれていると、十分すぎるほど分かっていたりする訳で。 ……これは……指文字でそれこそ一文字ずつ表さないと、自分のこの思いは正確には伝えられそうもない。 ……自分もヒロも、勉強しなければいけないことがどんどん増えていくように感じた。
いつか……遠くない未来。 クロス・ピース内で、彼と秘密のサインみたいにビシビシッと手話を飛ばしながら一緒に働いてる自分を想像して、なんだかとてつもなく幸せな気持ちになった。
最初のコメントを投稿しよう!