悪魔である彼氏 ~アカラside~

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彼は、目をパチクリさせている。 でも、真っ先に彼に伝えたかった言葉はまさしくこれだった。 「……お、おう。 こっちこそ……ありがとな」 あらら。 彼はこの手話を知っていたのだろうか。 筆談にてそれを聞いてみたら、彼はやっぱりニカッと笑って言った。 「知らねーよ! 分かんねえけど、なんとなく分かったっつか……ぶっちゃけ勘だ。 だって顔見りゃそれなりに分かるじゃねえか」 こうやって、いつも自分の思考を超越した返事をくれる。 その強引というか逞しいというか……彼のノリが好きだ。 彼の隣りは心地いい。 彼も、一つだけ手話を覚えて練習してきたという。 やってみせて、と書いて見せると照れくさそうに笑って披露してくれた。 スッと指さされた。 これは『あなた』を意味する。 そして、 ―――左手のひらを指先を前に向けて上向きにし、右手の親指を立ててのせ、そのまま上げる――― ……これは。 いや、彼にそんなことを言ってもらえる資格が自分にあるのかどうか。 「昔からそうだけど、今もな。 ……声失くしたってのにそうやってすぐ頑張る前向きなとことか。 俺には真似出来ねえ、アカラのすっげえとこだと思うよ」 彼が自分のことを、そんな風に捉えていてくれたのかと思うと嬉しい。 「今日はこれからクロス・ピース全体で歓迎会やってもらうんだ。 なんかめっさ恥ずかしくてよ、こそばゆいってか。 もー……やってらんねーよ」 そう言いながらも彼はどことなく楽しそうに見えた。 ……そうか、狭い世界に閉じこもっていた彼を飛び出させたのは……たしかに自分、かもしれない。 方法は最悪だけれど。 彼が自分に尊敬の念を表してくれたのは、きっとそういうことなんだろう。
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