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「では私はこれにて失礼します。縁がありましたらまたお会いしましょう」
拾い上げた眼鏡を掛け、男は二人に背を向け歩き出した。
「あの!」
女性は猫背気味のその背に向かって叫んだ。
「最後に教えて下さい! 私が聴かせて貰った作品の、作者の名前を!」
男はチラリと振り向くも、すぐに正面を向き、
「大器晩成。今は名も無き小さな器でも、誰もが大きな器になれる可能性を秘めている。あとは時間が解決してくれるだろう。私も焦らず、待つとするよ」
そう口にし、下駄を鳴らして去って行った。
「最後まで失礼なおっさんだったな。ありゃいつまでも売れないぜ」
夕陽の中に消えていく男をいつまでも見送り、女性はポツリと呟いた。
「……私も、書いてみようかな」
翌日、女性は男の他の作品も気になり、あの露店へ足を運んでみた。
しかしその場所にはもう、本もなければ男の姿もなかった。
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