2,求める現実、求められる現実

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2,求める現実、求められる現実

恐ろしい時間だった。自分を全否定された。言葉通り、「全否定」 「石崎君、僕は君の、あのプレーに感動した。と同時に激怒した。あのプレーはなんだい?チームのための動きだった今までを全てやめ、全て自分のためのプレーだった。チームの皆が君に合わせて動いた。仲間内でそんな話をしてなかった。だから、さぞ驚いただろう。君のしたいことはなんなんだ。君には力がある。何でもしようと思えばできる。ミッドフィールダーの底で黒子のように走り回る。きみの専売特許とも言えたはず。僕は君が分からない。でもうちの高校に欲しい。それだけだ。3日後にもう一度伺います。その時また答えの方をよろしくお願いします。」 そう県内一の強豪校の監督である加賀谷という男が言い残していった。うちの監督は何も言わなかった。 今まで黒子に徹することそれが疎ましく自分のなかで黒い渦と何者にも変え難い熱を帯びさせていた。それが気持ち悪かった。しかし、ある種のプライドでもあった。加賀谷に、「専売特許」と、言われて気づかされた。唯一のアイデンティティだったのではと、そう考えるとまた黒い気持ちの悪い渦が立ち込めてくる。何がいけない。アイデンティティは時に苦悩へと俺をいざなっていく。「何がしたいんだ」この言葉に俺は「全否定」を感じざるを得なかった。記事には「開花」と書かれていた。微かな高揚感が芽生えたのは確かだった。しかし、「何がしたいんだ?」の言葉には賞賛を感じない。いかにもお前の無駄なドリブル、無駄なパス、無駄なシュートは無意味だと言わんばかりだ。屈辱だ。 その日俺は日の目を浴びる高揚と真髄を貫かれる絶望を知った。
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