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高くついた代用品
私の実家は古くから代々伝わる織物屋である。
扱う生地は和のものから、世界各国に渡る。
多種多様な民族色の浮き出る紋様や生地の感触を私は小さい頃から知っている。
長いことご贔屓にしてくださるお客様がいるからこそ、私たちは家業を続けていける。多少の金額高に目を瞑れば、オーダーメイドだから可能となるデザインの自由度はお客様の身体の一部として成立する。まさしく、それは世界に羽ばたいてく一羽の光輝く鳥である。
高級・信頼・技術こそが強み。だが、そういっていられるのもいつかは限界がきてしまうものだ…。若い世代へとその想いが伝わらない。
安価な生地で尚且つデザイン性に優れた量産製品が蔓延する時代で、安価・丈夫・手軽という新しい三拍子が求められていく…。
時代は変容し、私たち一家も新しい販売経路を模索し始めた。敵認識の強かったインターネットとは実に便利なものである。
しかし、新時代を堪能するも束の間、
帝国政府の無慈悲な政策と相をなすかのように一層と首を締める究極問題が発生した。
『新型ウィルスが世界で蔓延、唯一の一般予防策 不織布製品が市場から姿を消す…』
新時代始まって以来の大きな経済打撃は、
いよいよと将来を見据えた低所得者層の不必要節約を掲げさせ、購買意欲の低下を推し進めていった。
暗くて先が見えず、決して出口のないトンネルに、見つけてくれるまでずっと隠れる生活を余儀なくされたのだ。
私たちも家族以外の従業員を抱えながら経営していくのは困難だと判断し、当面の間休業することにした。
店内に並べられた光輝く生地たちは、次第に暗い倉庫へと姿を消していった。
何とか打開策はないものか。
今私にできること…万民が必要で、ネットを介して販売できるもの…。
ピカリン!
私は閃いた。ただ、眠らせておくよりはきっと良い使い道に違いない。価格も抑えられる生地を使って、私の類い稀なる裁縫技術で我がお店を救済してみせる。
確固たる決意のもと、親には内緒にして、私は不眠不休で製作した。
一枚…そして、また一枚と暗闇の中にいた彼らが息を吹き返していく。
私はそれをネットに載せた。未来への明るさ、希望に満ち溢れているそのデザイン性と低価格の両方が受け、みるみるうちに売れていった。よしっ。両親のびっくりする顔を想像すると、自然と笑みがこぼれてくる。
製作時間を結構有するものの経営継続運転資金の足しにはなったはずだ。
それから、しばらくして、両親への親孝行と題して、貯めた売上金とともにその過程を説明した。
「ば、ばかやろーー!!」
一喝された。予想外の驚きと怒り。感謝字句などはどこにもない。
私は決して使ってはいけない生地を製品化してしまったようである。
私は泣いて、家を飛び出した。
お店の宣伝波及のために店名を丁寧に刺繍したことも重なり、私のしでかした行為は代々受け継がれてきた高品質・高級感のイメージを損なわせる結果になった。
その生地は特別なルートで輸入した我が店にしか置いていない特注品であった。
しかし、それはもうない。
鳥を見るたびに私は気分が悪くなった。大好物であった焼き鳥でさえも私は喉が通らないくらいである。
滑稽な私の姿を見て、口元の綺麗な野鳥たちは口を揃えてこう言うだろう。
「購入価格の先入観があるから、どうせ私たちは相応の価値しかないでしょうね…。」
お互いの身体を守るためだけに生まれた赤字だらけの口元アクセサリー…。
それでもいいじゃない…。
何度も何度も使えば味が出るじゃない…。
イタリア人も真っ青になるぐらいの価格破壊を提供してしまった私は二度と家には帰りたいと思わなかった。
「…そうだ!何もかも忘れるためにライブホールで踊り明かそう!」
阿呆鳥が鳴いた瞬間であった。
【完】
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