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さよなら
俺達はまず俺の実家に行って話をした。
そして結芽を引き取った経緯を父上から聞いた。
花梨様の紹介でやってきたらしい。
結芽は家臣からの紹介で花梨様のところにやってきた。
桜は仕事と家事で大変だろうからその世話人にと考えて父上に紹介したそうだ。
そんなに悪い子ではなかったそうなので雇う事になった。
じゃあ、家臣はどこから結芽を連れて来た。
家臣の家に行くと話を聞く。
夜歩いていたら刀を突きつけられ脅されたらしい。
結芽を花梨様に仕えさせるよう取り計らえと脅された。
きっと天の国の者だろう。
結芽の素性は分かった。
だが、肝心の結芽の居場所がわからない。
もう天の国に桜を連れて行ってるかもしれない。
そうなれば殴りこむまでだ。
町人に尋ねながら探していると情報が飛び込んできた。
ちょうど白髪の女性と桜がある町通りを歩いているのをみかけたらしい。
そのまま町外れの方へと歩いて行った。
俺と楓は言われた方に歩いて行った。
とある廃家から異様な気配が漂っている。
ここだ!
俺と楓は互いの顔を見て、中に踏み込もうとする。
しかし一人の女性が立ちはだかった。
「悪いけどここを通すわけには行かないよ」
「……いつぞやの天の国の手先だな?」
楓は知っている様だ。
「悪いがお前ひとりに時間をとってる場合じゃないんだ。そこをどけ。どかないなら……」
「熱くなるな。竜樹」
楓が俺の頭を小突いた。
「この女は俺が引き受けた。お前は桜を探し出せ」
「大丈夫ですか?」
こいつかなりの手の者だ。
「案ずるな。女子如きに後れをとったりしない」
楓は刀を抜いて構える。
「じゃ、任せる」
「一人も通すつもりはないよ!」
女性も刀を抜いて構える。
そんな事お構いなしに俺は女性に向かって突進する。
女性の間合いに入る寸前で俺は4身に分身する。
慌てる女性の腋を通り抜けるとそのまま駆け抜ける。
後を追おうとする女性に斬りかかる楓。
「……ふん。まあ一人じゃどうしようもあるまい。いつぞやの続きをするのも悪くないね」
「これで終わりにしてやる」
そんな二人を後にして俺は家に入る。
「竜樹!!」
桜の声だ。
声が聞こえた方に振り向くと桜と結芽がいた。
「桜!無事か!?」
だが、桜は何も言わない。
様子がおかしい。
「貴様!桜に何をした!?」
「別に。ただ真実を教えてあげただけ」
表情を一切変えずに淡々と言う結芽。
「大人しく桜を返せ!それとも死にたいか?」
俺は抜刀の構えをする。
「竜樹ダメ!!」
桜が俺を止める。
どうして?
「彼女の意思を尊重してあげたら?」
結芽が不可解な事を言う。
「桜、一体どういうことだ?」
すると桜は無理矢理笑顔を作った。
「短い間だったけど幸せでした」
「な、何を言ってるんだ?」
「私は天の国に行きます。皆に迷惑をかけるだけだし……それに」
それに?
「私はこの国にいてはいけない人間……ごめんね。ありがとう」
「ちゃんと説明しろ!」
「それは花梨にでも聞くのね」
結芽がそう言うと桜と一緒にどこかへ行く。
させない!
俺が2人の後を追いかけようとすると見えない障壁に阻まれた。
「さよなら。もう二度と会う事はないでしょう」
結芽が言う。
結芽は結界師だったようだ。
「桜!待て!!桜ぁ!!」
俺の声も虚しく桜の姿は消えていった。
どうして……。
何があったんだ?
何も教えてくれない桜。
何もわからないまま、ただ桜の「さようなら」というセリフだけが耳に残っていた。
俺は桜を守れなかった。
俺の力が及ばなかった。
絶対に守ると誓ったのに……。
「桜はどうした!?」
楓の声が聞こえた。
楓にあったことを伝える。
「……まさか」
楓は理由を知っているようだ。
「桜は一体何者なんですか?」
「……」
楓は何も教えてくれない。
俺は誰も待っていない家に帰る。
「絶対に天の国から仕掛けてくる。今はじっと耐えろ」
それが父上からの命。
そんな命を受けずとも今は何もする気になれなかった。
自分の無力さだけをただ呪う日々を送っていた。
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