五章 十七年前

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 瞳は私の手に一本の包丁を握らせる。今から何が起ころうとしているのか想像がつくものの、身体がそれを拒否できない。今の私は、瞳と同じ、ただの操り人形だ。  瞳と向かい合い、十二年前の結婚式を思い出す。 『義光(よしみつ)さん、私でいいんですか?』 『あぁ。瞳じゃないといけないから、僕は今、ここに立っている』  そんな会話をしながら、私達は指輪を交換した。雨の日も、風の日も、何があっても守り続けると誓った。でも、今はお互いに刃を向けている。  慎太も光太も怖かっただろう。意識が残っている状態で首を切り合うなんて、子供の精神には耐えられない。私ですら、耐えられないのだから。  瞳は無表情で大粒の涙を流し、私の首に包丁を刺し込んだ。そして私も、同じように瞳の首に包丁を突き刺す。
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