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瞳は私の手に一本の包丁を握らせる。今から何が起ころうとしているのか想像がつくものの、身体がそれを拒否できない。今の私は、瞳と同じ、ただの操り人形だ。
瞳と向かい合い、十二年前の結婚式を思い出す。
『義光さん、私でいいんですか?』
『あぁ。瞳じゃないといけないから、僕は今、ここに立っている』
そんな会話をしながら、私達は指輪を交換した。雨の日も、風の日も、何があっても守り続けると誓った。でも、今はお互いに刃を向けている。
慎太も光太も怖かっただろう。意識が残っている状態で首を切り合うなんて、子供の精神には耐えられない。私ですら、耐えられないのだから。
瞳は無表情で大粒の涙を流し、私の首に包丁を刺し込んだ。そして私も、同じように瞳の首に包丁を突き刺す。
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