六章 六日前

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 自分たちの周りで何かが起こり始めているのは明らかだ。このまま放っておいて良いはずがない。  ヘアワックスで寝癖を直していると、咲子からラインが入った。 【ごめん、10分くらい遅れそう】  俺は了解と返事を送り、靴を履いて玄関を出て行く。  雨の予報だったが、夜中の内に雨雲が通り過ぎたのか雲ひとつない晴天だ。雨粒がついたサドルをタオルでひと拭いし、咲子と待ち合わせをしている場所を目指す。  勢いよくペダルを漕ぎ、坂を上る。一定の間隔を空けて咲いている桜の木に視線を向けると、満開の一歩手前だった。一週間遅ければ昨日の雨風で散っていただろう。明日から一週間が見頃だ。浩紀は今日にでも花見をやりたそうだったが、なんだかんだ理由を付けて二日後にしたのは正解だった。
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