六章 六日前

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「あぁ、間違いなく来ると思う。昨日もだいたいこの時間に……」  咲子の方を向いて話しはじめた時、公園の入口から車椅子が入って来る。乗っているのはいつもの老人だ。しかし、その車椅子を押しているのは老婦人ではなく、五十代前半と思しき男性だった。息子かヘルパーか。どちらにせよ、虚ろな表情で車椅子を押す姿は血が通っていない機械のように見える。 「どうすんの? おばあちゃんがいないんじゃ話にならんやん。あのおじいちゃん……意思の疎通できんし」  咲子が肘で小突いてくる。俺は話をどう切り出すか決めてもいないのに、車椅子を押す男性の前まで歩いて行った。 「何か?」  男性は怪訝そうに顔を向ける。
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