六章 六日前

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「さぁ。ただ、あそこで死んだ夫婦は変な死に方やったらしいからな。君達みたいな若い子に、面白おかしく広めてほしくないんや」  俺達に釘を刺すようにそう言った男性は帰り支度を始めた。会話の途中、男性がかみおい荘の事をかみなふ荘と言ったことに気づいたが、敢えてそこには触れなかった。 「もし知っていたら教えて欲しいんですけど、あそこで自殺した夫婦は、入居してからどれくらいで自殺したんですか?」 「確か桜の時期に越してきて、事件が起こったのが秋やから、半年ってとこか」  思い出すようにそう言った男性は、カバンから水筒を取り出してコップにお茶を注ぎ、車椅子の老人に手渡した。老人は震える手でそれを受け取り一口啜ると、引き攣ったような笑みを浮かべた。お茶を口に含んですぐに笑ったせいで、口端からお茶が漏れ、ズボンが濡れてしまう。
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