六章 六日前

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 男性は舌打ちをしてからタオルを取り出し、老人のズボンを勢いよく拭き始めた。  老人は虚ろな目をかみおい荘に向けながら、初めて会った日と同じ言葉を繰り返す。 「うみ……にゃふ。うみ……にゃふ。うみ……にゃふ」  男性は大きく溜息をつきながらタオルをカバンへ突っ込んだ。そして、車椅子を押し、逃げるように去って行く。  挨拶する間もなく離れて行く男性を見つめながら、咲子が呟いた。 「どういう意味なんやろう……」 「わからん。でも、かみおい荘と関係はあるはずや。咲子は気づいたか? 会話の途中、かみおい荘の事をかみなふ荘って言い間違えたの……」
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