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ガラスを握る掌からは血が滴り落ちている。もう、黒目以外動かす事が出来ない。ふと公園へ視線を向けると、二人の少年がブランコに座り、靴飛ばしをしていた。
あの少年たちが生きた人間であろうとなかろうと、声を出せない今の俺には助けを求めることが出来ない。ここで血飛沫を上げても、彼らはブランコを漕ぎ続けるだろう。
ぎこちない動きで肘は曲がり、ガラス片は首に押し当てられる。
かみおい荘に興味を抱かなければと思った所で十日前には戻れない。せめて咲子だけは生きていて欲しい。そう願った時、唯一動いていた黒目が動きを止めた。
死ぬ。そう思った瞬間、自分の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。死を前にして幻聴が頭に響いているだけだと思ったが、その声は徐々に大きくなっていく。
『翔真……』
何度も聞いた懐かしい声。これは、浩紀の声だ。
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