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序章 今日
割れた窓から天文館が見える。プラネタリウムは今日も動いているに違いない。それに反して、自分の手足は完全に動かなくなってしまった。
微かに動いていた首も、傾ける事すら出来なくなっている。今はもう、山と海に囲まれた街並みを見つめることしか出来ない。
ただ、死ぬ前にこの景色を眺める事が出来たのは、アパートが小高い丘の上に建っているおかげだろう。
絶望するしかない今の状況で冷静に景色を眺めている自分が怖い。これも全て、諦観の境地が脳を麻痺させているからだろうか。
どこからともなく線香の香りが漂ってくる。それに合わせ、ガラス片を握る右手が勝手に動き出した。自分の意志とは関係なく、ゆっくりと、弧を描くように上がっていく。
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