第1話 その人との出会い

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第1話 その人との出会い

僕の名前はゼロミナ・メナス・ヘルベルト。 ヘルベルト家の次男だ。 ヘルベルト家は小さな領地を治める、 下等貴族になる。 小さい頃から剣の指導を受けてきた。 それもヘルベルト家の名をあげる為なんだとか。 そして僕が父から期待されてないのは、 もう既に知っていた。 なぜなら、 それは僕が、 「スキル」 を覚える事が出来ないからだ。 この世界では、 剣や魔法を習う上でスキルを覚えることになる。 このスキルを覚えることが出来れば、 飛躍的にその者の戦闘力を跳ね上がるらしい。 名高い冒険者や偉大な戦士は皆、 スキルを使いこなしているという。 だが僕にはスキルを覚えることは出来ない。 それは、 僕には魔力がほとんど存在していないからだ。 これは相当に珍しいことらしい。 魔力は誰にも存在する。 ただスキルを会得するには、 一定数量の魔力がいるらしい。 ただこれも普通の人であれば、 難なくクリア出来るのだが、 僕にはその量すら無いらしい。 つまり魔道士はおろか、 剣士としても強くはなれない。 そう決まっているのだと、 父に言い放たれたことがあった。 だから父は僕には興味も持たず、 いまは兄ばかり目をかけていた。 母 「ゼロミナ、 あなたは無理に剣を覚えなくていいのよ? 家にはジーニアがいるからね。 あなたは自分のやりたいことをしなさい? 」 母はいつも優しく僕にそう語りかけていた。 僕は小さい頃から剣だけを教えられてきた。 だから今の僕には剣士を目指す他、 興味がなかった。 それにスキルを全く使えなくても、 有名な剣士はいないことは無いんだ。 その人は先代の剣聖、 ハモンド。 その人は僕と同じく魔力量が少なく、 スキルの類を一切使えなかったらしい。 それでも彼は剣聖にまで登りつめたのだ。 今は彼は大戦犯として語り継がれてるが、 僕はそんなこと信じない。 彼はどうやってそこまで強くなれたのか、 まだ小さい僕には分からなかった。 僕にできるのは剣術指南書を読んだり、 ひたすらに鍛錬を繰り返すことしか出来なかった。 魔力量は12歳になると総量が決まるらしい。 そこからはもう増やすことは出来ないらしい。 もうすぐ僕は12になる。 結局僕の魔力はそこまで上がることは無かった。 だけどそれでも、 剣の腕は少しずつ上達していた。 兄は僕に優しかった。 暇な時は鍛錬を手伝ってくれた。 兄は大会などに出場して、 何回か優勝したりするほど腕が立つのだ。 兄は僕の悪い癖や体の鍛え方、 剣の握り方やサシの戦い方を僕に教えてくれた。 僕は兄との立ち会いが何より好きだった。 実戦形式は何よりいい練習だと思っていた。 たまに兄が手を抜いて、 勝たせてくれたりした。 それが何より悔しかった。 僕は兄に勝つことだけを目標にしていた。 今日も兄と立ち会いをしていた。 そして初めて、 兄はいつもは余裕のある顔をしているのだが、 その日は少し違った。 息を乱し、 少し表情が険しかった。 そして僕の連撃に兄が少し押され始めてきた。 行ける! 僕はそう思った。 その時だった。 ジーニア「ソルトブレイク! 」 兄は今までで使ってこなかったスキルを、 ついに使ったのだ。 兄は僕の剣を受け流すと、 そのままの勢いで体を捻り剣を振るった。 僕は防ぎきれず訓練用の剣を落としてしまった。 ジーニア「はぁはぁ、 すごいな! ゼロミナ、 遂にスキルを使わされてしまったよ! いつかこんな日は来ると思っていたがお前はすごいな! 」 兄は僕の頭を撫でながらそう笑っていた。 僕は兄に褒められた嬉しさよりも、 悔しさが身にしみた。 やはりスキル無しでは勝てないのか? 僕は強くなれないのか? そんな虚無感が僕を襲った。 その日の夕食、 兄は父に今日のことを話していた。 明るく嬉しそうに話していた兄とは対称に、 父は何やら怪訝そうな顔をしていた。 母と兄は嬉しそうだったのに、 露骨にも2人とは違った表情をしていた父を忘れられない。 そしてその日の夜、 父と母はなにか言い争いをしていたようだった。 次の日、 母は僕を見ると少しバツの悪そうな表情をした。 そしてその日の食事はいつもより少し、 豪勢だった。 母はほとんど僕と目を合わさず、 ろくに会話もしないでその日が終わろうとしていた。 僕「今日は母上の様子が変だったな。 父上もいつも以上に冷たかったな。 やっぱり僕は…… 」 ダメだ、 余計なこと考えてしまうな。 僕は何も考えなくていいように、 早々に寝ることにした。 しばらくすると、 僕の部屋に誰かが入ってくるのがわかった。 恐らく母と父だろう。 何となくそんな気がしていた。 母「あなた、 本当にこんなことをするの? 」 父「今更何を。 もう決めたことだ。 お前もそう決めただろう? 私たちのためにもこうする他ないのだ。 」 2人は何かをボソボソと話していた。 父「じゃあ頼んだぞ。 いいな。 」 父はそう言い残すと部屋から出ていった。 母「ごめんなさいね。 こうするしかないの。 あなたに罪はないわ、 無力な母さんを許しておくれ。 」 母は何度も謝りながら僕の手を優しく包み込んだ。 優しく暖かい、 女性らしい手だった。 そして僕の手にポツリポツリと、 水のような物が落ちていた。 泣いているのだろうか。 母はしばらく僕の手を握っていた。 そして大きく息を吸い、 息をゆっくり吐いた。 僕の手をゆっくり離すと、 今度は何かを握らせ、 母「私にはこうすることしか出来ないわ。 お父さんにバレたら、 どやされてしまうわね。 ゼロミナ、 ごめんなさいね。 」 母はもう一度謝った。 母「テレポートブリーズ。 さようなら我が愛息子よ。 」 母がそう唱えると僕の体は、 優しいそよ風のようなものに包まれた。 心地よいその感触はしばらく僕を包んでいた。 そして数秒後、 その感触は消え去り、 先程までベッドの温もりも共に消えていた。 僕が横になっていたのは草むらだった。 僕は恐る恐る目を開けた。 きっと目を開けたら僕の部屋で、 母が目の前にいて優しく抱きしめてくれる。 そんなありもしない期待を込めながら。 木? 辺り一面木が生い茂っていた。 どうやら僕はどこかの森に飛ばされたようだった。 僕「母上、 父上? ジーニア兄さん!? みんな……。 」 僕は信じたくなかった。 僕は家族に捨てられたのだ。 スキルを使えないから? 僕が他の人と違うから? 僕はいらない子? 不安と恐怖、 悲しみで押しつぶされそうになってきた。 突然、 目頭が熱くなる。 そして目頭の熱さとは対称的な、 ほんのり冷たい液体が頬を伝って流れ落ちた。 僕は知らないうちに泣いていた。 涙を止めようと手で拭う。 その時、 僕は視界の端に何かが映るのを見た。 僕は右手を見た。 訓練用の剣? 僕の右手には訓練用の剣が握られていた。 いつの間に? はっ! 僕は思い出した。 母が僕に何かを握らしたのを。 母は、 僕を完全には見捨てて無かった! 僕「母上、 あなたは僕に生きろと言ってくれるんだね。 やってやる、 僕は生きて父上を見返してやる! 」 僕は右手に握られた剣をマジマジと見つめた。 ん? この柄の絵柄。 これは兄が愛用している剣だ。 兄がこれを手放すはずがない。 いつも寝る時も肌身離さない程なのだから。 それがなぜ? 僕は察した。 僕のことを案じてくれるのは母だけではないと。 僕はなぜだか少し、 元気を貰った気がした。 剣を一段と強く握りしめる。 必ず僕は冒険者になって父を見返してやる。 そして母と兄にありがとう、 ただいま。 と、 言うんだ! 僕はそう胸に誓い、 とりあえず森を抜け出すことにした。 しかし、 歩いても歩いても森を抜ける気配はない。 今のところモンスターとは出くわしてはない。 僕が住んでいる領地の近くでは無いだろう。 僕が住んでる領地より遥か北、 ゼーナム領でしか咲かない花。 確かあれは……そう、 モムルの花だ。 それが咲いているということは、 きっとそういうことなのだろう。 少し肌寒いのも頷ける。 しかしこんなにも、 モムルの花が咲いているとは。 確かこの花は少し、 レアな物だと聞いていたが。 ここは少し他の森とは違うのかもしれない。 空気もとても美味しいような気がする。 僕の警戒心が解けてきた頃、 辺りの雰囲気が少し変わった。 何かとても嫌な予感がする。 先程まで聞こえていた、 鳥の囁き声などが聞こえなくなっていた。 何かいる、 僕は咄嗟にそう確信した。 突如、 唸り声らしきものが聞こえたかと思うと、 目の前の茂みより何かが飛び出してきた。 僕「ローグウルフ! 」 それはゼーナム領でよく見られる、 ローグウルフというモンスターだった。 図鑑で見たものより、 少し大きいローグウルフが僕の前で威嚇していた。 どうしよう、 喰われる! 僕は、 突然の事でどうしたらいいか分からなくなっていた。 ふと訓練用の剣を持ってることを思い出した。 僕「これなら倒せないにしても追い払えるか? 兄さん、 母さん力を貸して! 」 僕は腰に差していた剣を、 勢いよく引き抜いた。 しばし、 睨み合いが続く。 睨み合ってると突然、 後ろにも何かの気配を感じた。 僕がちらりと視線を送ると、 もう1匹のローグウルフがこちら目掛けて突撃している。 まずい挟まれた!? 1匹ならまだしも、 2匹!? しかも挟まれている。 これはやばいかもしれない! 対面のローグウルフも後ろの仲間に気づいたのか、 息を合わせるかのように動き始めた。 2匹同時に僕に飛びかかる。 僕は呆気に取られ、 木の根っこか何かに足を引っ掛けてしまった。 僕はその場で転んでしまった。 まずい、 やられる! 僕は転ぶさなか、 ローグウルフ達が同時に、 僕に飛びかかろうとしてるのを見た。 流石に避けるのも防ぐのも無理そうだ。 ーーキャインーー 突然僕の上の方で情けない鳴き声が聞こえた。 僕は固く閉じていた瞼を開ける。 すると僕の目の前には、 僕に食らいついていたであろうローグウルフ達が、 2匹揃って地面に倒れていた。 何があったんだ? どうやらローグウルフ達は、 僕が転んで倒れると思わなかったのか、 それぞれに激突したらしい。 2匹の顔には少し傷がついていた。 僕はチャンスだ! と、 思いすぐさま起き上がる。 僕が起きるのと同じくらいで、 ローグウルフ達も起きた。 軽く頭をブンブンと振ると、 僕に対面し牙を出しながら、 グルグルと威嚇していた。 相変わらず2対1の構図は変わらない。 だが先程とは少し違って2匹とも目の前にいる。 僕の後ろは大きな木もある。 流石に後ろから、 てことはもうないだろう。 僕は改めて剣を構え直す。 僕「こ、 来いよ! 犬っころ! 僕だって冒険者目指してるんだ、 こんなとこで死ねるか! 」 僕は自分を鼓舞するように、 震えた声でそう言い放った! ローグウルフ達も、 それに負けんとグルグルグルグル威嚇をする。 そして少し姿勢を低くした。 来る! その刹那! 2匹が僕に飛びかかる。 僕は最初に飛びついてきたローグウルフを、 剣で受け止めた。 そのローグウルフは剣をガブガブ噛み付いていた。 僕は思いっきし剣を振り、 ローグウルフを弾き飛ばした。 僕「よし上手く外れた! 次は……! 」 1匹目が上手く弾き飛んだのを確認すると、 次のローグウルフも同じように受け止める。 僕「ぐ、 お前は力強いな……く、 動け! 」 2匹目はものすごい力で剣に噛み付いている。 僕「離せこの! 」 僕は咄嗟に片手でローグウルフの頭を叩いた。 すると少しだが力が弱まったように思えた。 今だ! 僕「いっけええええ! 」 再び両手でしっかり剣を握ると、 大きく剣を横に振り回した。 ローグウルフは驚いたのか、 噛むのをやめた。 そして綺麗に吹き飛んだ。 あれこのコースは…… ーーキャイン!ーー 何と2匹目のローグウルフは、 今まさに立ち上がったばかりのローグウルフと、 衝突をしたのだ! 再び地面にふす2匹。 じたばたしてからすぐにまた起き上がる。 そして大きく1度、 遠吠えをすると来た道を猛スピードで走り去っていった。 僕「はぁはぁ、 あき、 らめたのか? あれが持っといたら死んでたよ。 はぁはぁ疲れた。 」 僕は地面に座り込んでしまった。 正直死ぬかと思っていた。 こんな調子で僕は無事に生きられるのか? 冒険者になれるのか? 不安だ。 僕「すぅー、 はー。 」 僕は大きく息を吸い、 吐いた。 だいぶ落ち着いてきた。 早々に出るべきだ。 すぐ立ち上がりその場を去ろうとした時。 突然茂みから先程の2匹が再び現れた。 しかも後ろにはさらに4匹のローグウルフもいた。 さらにそのうちの1匹はめたんこ大きい。 周りのローグウルフより明らかに。 2倍はあるだろう。 僕「諦めてくれたんじゃないのかよ。 ボスと仲間まで連れてきたのか……終わった。 」 手前にいたローグウルフ達が、 ボスに道を開けるように横に広がった。 奥にいたボスがゆっくり前に出てきた。 こうして近くで見ると余計大きく見える。 こんなのにやられたら一溜りもないな。 ボスは、 静かにゆっくりとした足取りでこちらに近づく。 そして突然大きく右前足を振りかざす! 無理だ! 防げない! 僕は咄嗟に後方に回避しようとした。 しかし紙一重でかわしきれなかった。 僕「熱! 痛い!!!! 」 彼の右足は僕の右目を引っ掻いていた。 右目から血が流れ落ちる。 視界が見えずらい! くそうここまでなのか? 僕はあまりの痛みで片膝をついていた。 動けない! 痛すぎる! でもこのままじゃ! 色々な思考が頭の中を駆け巡る。 嫌だ死にたくない、 まだ死ねない! こんな所で! 僕「こんな所で死んでたまるかあああああ! 」 僕が叫ぶと、 静観していたローグウルフ達も、 僕を取り囲むように、 にじりよってきた。 本当にここで? そんなこと、 あんまりだ。 父に捨てられ、 母と兄がくれたせっかくのチャンスもこんなことで…… 見返すことも、 お礼を言うことも出来ぬまま誰にも知られず死ぬのか? そんなの……嫌だ。 ローグウルフ達は、 無慈悲にも僕に牙剥きながら近寄ってくる。 もう目と鼻の先まで来てるように見える。 ボスが1度遠吠えをした。 攻撃の合図だろうか? ローグウルフ達はそれを聞くと姿勢を下げ、 僕に狙いをつけたかのように真っ直ぐ見据える。 食われる! そう思った瞬間、 突然ボスが動きを止める。 それに習うように取り巻き達も、 動きを止める。 数回周囲をキョロキョロしたかと思うと、 一斉に同じ方向を見つめ始めた。 僕もつられて同じ方向を見る。 途端ローグウルフ達は雄叫びを上げ、 見てた方向と逆方向へ向けて疾走して行った。 一体何があったんだ? 僕は呆然とその様子を、 眺めてることしか出来なかった。 すぐに僕は目の痛みで我に返った。 痛すぎる、 ローグウルフ達と対峙してる時は少し和らいでいたが、 また痛み出した。 アドレナリン切れか? 僕「痛い、 痛すぎる……何か手当できるものは……。 あっ! そうだ……。 」 僕はここに来るまでの道中にあった、 あの花のことを思い出した。 モムルの花。 確かあの花の茎から出る液体は消毒、 止血などに使われる花のはず。 僕は早速モムルの花を摘む。 そして茎から出る液体を目に垂らす。 気持ち痛みは和らいだ気がする。 僕「ふぅこれで少しは楽になるかな? 」 先程までの激痛は無くなった。 だがまだ痛みはあるようだ。 僕は少し休むことにした。 僕はモムルの花をすすりながら座っていた。 僕「飲んでも美味しいんだな。 」 ?「ほうほう、 かような場所で少年に出会うとは、 これはいかに。 」 突然僕の背後から声がした。 ………… 続く
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