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第2話 修行
老人「ほうほう、 かような場所で少年に出会うとは。 不思議なものじゃ。 」
僕は突然の事で呆気に取られてしまった。
全く物音も気配もせず、 この老人は僕の真後ろに立っていたのだ。
杖を片手につき、 腰には剣を、 そして背中には、 これまた見たことない大きな剣を背負っていた。
その丈はその老人とほぼ同じであった。
珍しい武器の組み合わせだ、 だけど何故だろう。
僕は似たようなのをどこかで?
しばらく僕が無言で老人を凝視してると、
老人「ふむ、 彼奴等に目をやられたのか。 うむ? モムルの花? それで消毒と止血をしたのか。 お主は博識じゃのう。 だが何故そんなにも賢い子が、 こんな危険なところにおるのかな? 」
老人は責めるわけでもなく、 ただ優しく僕にそう聞いた。
僕は老人に経緯を話そうとした。
その時、 安心して緊張の糸が切れたのか、 僕は突然目から大粒の涙を流していた。
老人はそれを見ると一瞬たじろいたが、 すぐに、
老人「そうかそうか。 よく頑張った。 もういいんじゃ。 今はただ委ねなさい。 」
僕は老人の言葉を聞いたら、 まるで栓が抜けたようにどっと、 今まで押さえてたものが溢れ出てきた。
老人は僕に寄り添い、 優しく肩に手を添えて居てくれた。
何よりそれが嬉しかった。
僕は1人じゃない、 そう思えたんだ。
僕は暫く泣いていた。
恐らく今までで1番泣いただろう。
普段は人前では泣かぬまいと、 心に決めていた。
そうしてるうちに、 1人の時ですら泣くことが減っていたのだ。
僕は思った。
まだこんなにも涙が流せるのだな、 と。
しばらく涙を流し、 嗚咽を漏らしていた。
そしてだいぶ落ち着いてきたのか、 涙は少しずつ減っていき、 涙のあとが乾いてきていた。
僕「ひっく、 えっく、 ぞ、 ぞの、 ずみばぜん。 お恥ずかしい所を、 ひっく、 お見せしました。 」
老人「カッカッカッ! 泣きたい時は泣けばいいんじゃ。 何もかも溜め込むのは体に毒じゃ。 さてだいぶ落ち着いてきたかの? 」
僕「はい、 ありがとうございます。 何とか大丈夫そうです。 」
老人「それは良かった。 若いの、 家は近いのか? 」
僕は戸惑った。
なんと言えばいいのか。
正直に言うべきか、 これ以上この老人には迷惑をかけたくない。
嘘を言うべきか。
……
僕「は、 はい。 近くなので後は1人で大丈夫だと思うので、 そのありがとうございます。 」
僕がそう言うと、 老人は少し怪訝そうな顔をして、
老人「嘘が下手なことよ。 ワシのことなら気にせんでええ。 何やら深い事情がありそうじゃな。 よしワシの家で聞こう。 お主の家に比べれば質素じゃが、 こんなとこよりはましじゃけ。 」
老人は嘘をついたことも責めるわけでもなく、 ただ明るくそう言ってくれた。
僕「い、 良いんですか? 」
老人「カッカッカッ! 若いのが遠慮するもんじゃ、 ない。 さてそういう事ならば早速向かおうとするかの。
」
すると老人は、 おもむろに僕を抱き抱えた。
僕「えっ! 大丈夫です歩けますから! 」
老人は僕が恥ずかしさのあまり、 顔を赤らめながらそう言うのを見ると、 ニヤッ、 と微笑み返してから、
老人「では行くぞ。 しっかりつかまっておれよ? 」
と、 言った。
すると老人は、 突然僕を抱えながら走り始めた。
なんて速さだ。
とても老人とは思えない。
暫く走ったかと思うと、 今度はこれまたものすごい速さで木に駆け上がっていく。
この人は一体何者なのだろうか。
もしかしたら、 もの凄い冒険者なのかもしれない。
僕は最初は驚いてはいたものの、 段々と楽しくなって来ていた。
老人「どうじゃ? こうしてると気持ちいいじゃろ! 」
老人はふと尋ねてきた。
確かに風がすごく気持ちいい。
僕「うん! 風が気持ちいい! 」
老人「そうじゃろそうじゃろ! ではもっと飛ばすぞ! 」
老人はそう言うと、 更に速く、 木々の間を駆けて行った。
暫くすると、 森をぬけた。
そして、 少し離れたところに、 古ぼけた小さい家が建っていた。
老人「あれがワシの家じゃ。 古いが住み心地はよいぞ? 」
老人は言った。
僕は昔から質素な家に住んでみたいと、 思っていた。
冒険者になればきっと野宿とか、 危険なところで寝たりすることもあるだろう。
何より、 それが少し憧れでもあったのだ。
もとより今日は、 どこかで野宿するつもりだったところだ。
老人「さあ遠慮なく入ってくれ。 」
老人は僕をゆっくり下ろし、 そして戸口を開けた。
誰もいないのか、 部屋の中は暗かった。
僕は恐る恐る部屋に入った。
木のいい匂いだ。
老人「いま火を起こすからの。 ちと待っておれ。 」
老人はそう言うと、 どこからか薪を持ってきた。
そしてそれを囲炉裏に置いた。
ーーカン!ーー
老人は火打石を1度打つ。
すると薪に火が灯り出した。
凄い、 魔法や魔道具を使わずに火を起こすなんて。
魔法以外の方法で、 火を起こすのは初めて見た。
老人「ワシは魔法が使えんからのお。 まっことに不便なことよ。 まあ無くても困らんがのお。 カッカッカッ! 」
今魔法が使えないって言ったのか?
まさか、 もしかしてこの人は……
僕「あ、 あのお爺さんは冒険者の方ですか? 」
老人「カッカッカッ冒険者か。 懐かしいのお。 昔はそうじゃったな。 今は、 村からの頼まれ事をしてるだけの、 ただの老いぼれじゃよ。 」
僕「やっぱり! あの身のこなし、 只者ではないと思ってました! でも魔法が使えない、 と言うことはもしや? 」
老人は、 お茶を1杯飲んでから静かに言った。
老人「そうじゃ、 ワシは失格者。 スキルも魔法も一切使えん。 」
やっぱり、 僕と同じ失格者。
魔力が少ないがために、 スキルや魔法が使えない、 いわゆる負け組。
それなのにあの身のこなし、 恐らくそこらの冒険者なんて目じゃないはずだ。
僕「あの、 こんな事言うのもあれなのですが、 何故あんなに素早く動けるのですか? 」
老人「若者よ、 お主もワシと同じであろう? お主も冒険者を目指しておるんだろう? ならば諦めぬ事だ。 確かに、 ワシらは他のものと比べると不利じゃ。 じゃがな、 諦めずただひたすら己を鍛え、 技を極め、 高みを目指すのじゃ。 そうすれば冒険者としてやっていける。 」
静かにそう語る老人の目は、 何故か少し寂しそうであった。
僕「僕もあなたのように、 強くなれますか? 」
僕は真っ直ぐ老人の目を見つめ、 そう言った。
老人「お主は強くなれるじゃろうな。 よく鍛えられてる、 それに根性も勇気もある。 きっと大丈夫じゃよ。 」
なりたい!
僕もこの老人のように、 あの剣聖のように!
強くなりたい!
この人ならきっと!
僕「お願いします! 僕を指導してください! 強くなりたいんです! 」
僕は、 頭を床に擦り付けるように、 頭を下げた。
突然の事で、 老人は少し困惑していたがすぐに、
老人「カッカッカッ、 ワシの指導は厳しいぞお? 」
僕「望むところです! これからお願いします、 師匠! 」
僕がそう言うと、 老人は少し照れくさそうにしていた。
老人「うむいい度胸だ。 気に入った! では明日から早速始めるぞ。 お主、 名前は? 」
僕「ゼロ、 ゼロミナと申します! 」
老人「うむ、 良い名だ、 ゼロよ。 ワシは……うむ、 オル爺と呼ばれておる。 」
ん?
何かいま口ごもっていたような……。
気にしすぎか。
僕「改めてよろしくお願いします! 師匠! 」
師匠は僕の事情も詳しく聞かず、 弟子として受け入れてくれた。
きっと師匠も、 何か抱えてるものがあるのだろう。
僕も深く詮索しないことにした。
オル爺「さて明日は早いぞ。 今日はもう寝るとしよう。 」
師匠はそう言うと布団を敷いてくれた。
明日からどんな修行をするのだろうか。
きっと辛いんだろうけど、 強くなるためだ。
頑張ろう!
…………
ーーチュンチュンーー
鳥の囁き声で目が覚める。
昨日のことが嘘のようだ。
ふと目を触る。
まだ少し痛む。
それに大きな爪痕がついてる。
やはり昨日の出来事は現実だ。
オル爺「起きたか。 では腹ごしらえをして、 でかけるぞ。 」
僕達は朝ごはんを食べ、 まだ薄暗い外へと出ていった。
しばらく歩くと、 広い平原のような場所に着いた。
どうやらここでやるらしい。
オル爺「さあ早速始めるとしよう。 お主の実力はある程度わかっておる。 まずは基礎体力をつけることからじゃな。 ワシにひたすらついてくるのじゃ。 」
そう言うと師匠は走り出した。
てか、 速!
昨日ほどでは無いが、 見た目からは想像もつかない速さだ。
僕はとにかく必死に追いかけた。
全然追いつけない。
ただ差がつかないのは、 恐らく加減されてるのだろう。
ただひたすら走り続けた。
僕「ぜぇぜぇ、 はぁはぁ。 も、 もう無理……だあ。 」
しばらく走り続けて僕は、 足もガタガタ、 息もぜぇぜぇしていた。
オル爺「なんじゃあもうへばっておるのか。 カッカッカッ! これからが楽しみじゃのう。 よし次は筋トレじゃ! 」
筋トレか。
それなら少し自信があるぞ!
なんたって毎日欠かさずやってるからな!
オル爺「ふむ、 自信があるようじゃの。 まずは腕立て伏せ500回じゃ! 」
ふぇ?
今なんて?
500?
そんなのいつもの5倍じゃないか!
僕「は、 はひ! 」
僕と師匠は腕立て伏せを始めた。
なんて事だ!
師匠は片腕でやっている。
しかも重そうな剣を背負ったままだ。
ま、 負けられない!
僕、 オル爺「497、 498、 500! 」
何とか気合いで乗り切った。
もう腕がプルプルしている。
師匠はまだ余裕そうだ。
なんて人だ。
僕はつくづく、 この人には勝てないんだろうな。
そう思った。
オル爺「ほほう! やるのお! よしよし次は腹筋と行こう! ほれ木にぶら下がるぞ! 」
そう言うとオル爺は、 軽々しく木にぶら下がった。
僕も負けじとぶら下がる。
僕「し、 師匠! 今度は何回ですか? 」
僕は分かりきったことを聞いてみた。
オル爺「500じゃ。 」
師匠は満面の笑みを浮かべ答えた。
やっぱりか。
何となく分かってはいたが、 果たしてやりきれるだろうか。
早速僕達は腹筋を虐め始めた。
僕、 オル爺「499、 500! 」
僕は、 500回目を終わらせたと同時に、 木から落ちてしまった。
僕「がっ! 痛い……。 背中よりもお腹が……。 」
背中から落ちたのだが、 落ちた痛みより、 虐め抜いた腹筋の方が痛かった。
オル爺「カッカッカッ、 大丈夫そうじゃな。 今日はあと、 スクワットと背筋をやってしまいにしようかの。 それまでの辛抱じゃ! 」
僕「は、 はい! 頑張ります! 」
終わりが見えれば頑張れる!
と言っても、 あと1000回も筋肉を虐めなければいけないのか。
自分の、 今までの鍛え方が甘いってことがよくわかった。
やはりセンスのない者は、 これくらい努力しないといけないということなのだ。
…………
僕「はぁはぁはぁはぁ、 やっと終わったー! もうあちこち悲鳴が……あだ、 あだだだ。 痛いよお。 」
オル爺「カッカッカッ! よう頑張ったわい。 やはり見込みのある男よの。 よし、 飯にしよう! 今日は近くの村で頂くとしようかの! 」
僕達は早速近くの村に向かうことにした。
…………
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