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第3話 マダム
しばらく歩いていると、 小さな村が目に入ってきた。
どうやらあそこが目的地らしい。
もうお腹はペコペコだ。
僕達が村の入口に近寄ると、 衛兵が駆け寄ってきた。
衛兵「これはオル爺殿! お元気そうで何よりです! 」
どうやら師匠と顔見知りのようだ。
オル爺「シグルド、 お主こそ元気そうじゃの? どうじゃ奥さんと娘さんは、 元気にやっとるか? 」
衛兵「はい! 実は、 また1人産まれそうなのです! 」
オル爺「なんとこれはめでたい! それは楽しみじゃのう! そうじゃほれ! 」
オル爺はそう言うと袋を手渡した。
それを、 シグルドと呼ばれた衛兵は覗いた。
衛兵「こ、 こんなに貰えないですよ! 」
どうやらお金か何かを渡したみたいだ。
オル爺「遠慮するでない! これはワシからの祝いじゃ。 家族を大事にな! 」
衛兵「ありがとうございます! ありがとうございます! 」
衛兵は、 目に涙を浮かべながら何度も頭を下げていた。
オル爺「カッカッカッ! さてワシらはマダムの所に行くからの。 しばらくは居るじゃろうから、 何かあれば言うのじゃぞ? 」
衛兵「はっ! 畏まりました! してそちらの少年は? 」
衛兵は、 チラとこちらに視線を送る。
オル爺「ワシの弟子じゃ。 仲良くしてやってくれな? 」
師匠は優しく、 そして嬉しそうに衛兵に言った。
衛兵「お弟子さんでしたか! これは今後が楽しみですな! お引き止めして申し訳ないです。 」
オル爺「いやいや、 いつもご苦労さまな事だ。 村の守りは任せたぞ! 」
衛兵はびしりっ、 と足を揃え敬礼をした。
村の中はそれなりに人で賑わっていた。
色々な市場が並んでいた。
オル爺「今日は一段と賑やかじゃのう。 さ、 もうすぐだマダムの店じゃ。 」
師匠はこの村では有名なのか、 道行く人のほとんどが知ってるようだった。
色んなに人に声を掛けられていた。
それにこの村の人達は皆、 気さくな人ばかりなのだろう。
師匠とのやり取りを見て、 何となくそう思った。
そうこうしてるうちに、 僕達は1件の立派なお店の前着いた。
僕「マダム・ジンジャーのホットスクランブル? 」
オル爺「ここじゃよ、 マダムの飯は格段に美味いぞお? おっそうじゃ先に言っておくが、 マダムを見ても驚くなよ? 」
僕「? 」
どういうことだ?
マダムを見て驚くな?
マダムは何か普通じゃないということか?
僕は少し怖くなった。
オル爺「マダムー? ワシじゃよ、 遊びに来たぞい。 」
オル爺が声を上げる。
お店の中はまるで酒場のような見た目だった。
お客さんも無骨そうな人が多かった。
客1「おぉ! オル爺じゃねえか! 」
客2「オル爺!? 久しぶりだよな? おいマダム! オル爺が来たぞー! 」
店員「オル爺様、 お久しぶりです! いつもの席でよろしいでしょうか? 」
オル爺「あぁ頼む。 マダムは? 」
店員「今席を外しております。 すぐにお戻りになられると思いますので、 ごゆっくりくつろいでいて下さい! 」
そう言うと、 お店の方は僕達を2階の席に案内してくれた。
凄い!
この席は窓からの眺めが良い。
村の外に広がる平原、 離れたところにある風車小屋、 小さな川や、 水車小屋が一望できる。
オル爺「どうじゃ眺めがよかろう? 」
僕「はい! とても綺麗です! 」
僕が感動して外を見ていると、
?「オルトリッヒじゃないかい!? あんた本当に来てたんだねえ! 」
突然後ろから活気のある声が聞こえた。
僕は後ろを振り向いた。
え?
そこには、 とにかくでかい女性が立っていたのだ。
とにかくでかい。
その辺の大男よりもでかいだろう。
おそらく2メール程はある。
そしてさらに目に付くのが、 エプロンの隙間からのぞかせる鍛えられた筋肉
とてつもなくムキムキなのだ。
こ、 怖い。
でも人柄はすごく良さそうであった。
オル爺「久方ぶりじゃのう、 マダムよ。 相変わらず元気そうじゃのう。 安心したわい。 」
マダム「はっはっは! そう簡単にくたばりゃしないよ。 それより珍しいじゃないかい! あんたが誰かを連れてるなんて。 」
マダムは、 僕の頭をわしゃわしゃしながら話していた。
オル爺「そんな日もあるさね。 こやつはワシの弟子のゼロじゃ。 これからたまに世話になるかもしれんが、
頼むぞ。 」
マダム「へぇーそうかい。 あの頑なに弟子を取らなかったあんたがねぇ。 まあそういう事なら家族同然さ! いつでも遊びにおいで! 」
マダムは、 僕の頭をわしゃわしゃしながらそう言った。
顔から火が出そうなくらい熱い。
僕(恥ずかしいからやめてくれー! )
僕は心の中でそう叫んだ。
そして僕達は、 出された料理を食しながら、 マダムや師匠の昔話を聞いた。
マダムと師匠は昔、 冒険者として共に戦った仲なのだと言う。
他にもあと3人いるらしい。
当時、 師匠達はかなり強かったらしい。
いや今でも敵無しと、 僕は思っているが。
その頃もやはり師匠は、 剣の腕が誰よりも、 秀でてたらしい。
流石は師匠だ。
僕は師匠がこの人で良かったと思った。
僕と同じ、 失格者でありながらどの剣士よりも強い。
僕は師匠のようになりたいんだ。
僕はふと思ったことを聞いてみた。
僕「でもそんなに皆さん強いのなら、 五大聖帝にもなれそうですね。 」
僕は何気なく言ったつもりだった。
しかしそれを聞いた途端、 一瞬だが2人とも、 バツの悪そうな顔をしたのを僕は覚えている。
マダム「ははははは! 坊や、 そんな簡単に聖帝にはなれないのよ! 」
オル爺「そうじゃなあ。 ワシらはそこまで大層なもんじゃないよ。 」
少し気まずいなと、 僕は感じていた。
何か触れてはいけない事に、 触れてしまったような気がした。
五大聖帝、 それは冒険者の中でも、 抜きでた能力を持つ冒険者に与えられる称号である。
先代の剣聖もその1人だった。
先代の剣聖、 ハモンド・オルトリッヒ。
僕と同じ失格者でありながら、 剣聖にまで登りつめた男。
そして伝承では、 最悪最凶の裏切り者と伝わっている。
詳しいことは分からないのだが、 大昔にあった大きな戦いで邪悪な竜を封印したと聞く。
そしてその日を境に、 魔物たちが活発化したのだ。
そして先代剣聖を含む5人の勇者たちは、 裏切り者の烙印を押されてしまった。
だけど僕はそうは思わない。
命を賭して竜と戦い、 封印した彼らがなぜそんなことをする必要があろうか。
僕は何か想像もつかない、 大きなそして決して掴めない何かが、 あると思っていた。
あれそういえば師匠、 オル爺って剣聖に似てる気が……。
僕はマダムと楽しそうに酒を酌み交わす、 師匠を横目で見た。
うーん思い過ごしかな?
そんなすごい人が師匠だったら光栄だけどね。
でも僕はこの人が師匠で良かったと思っている。
しばらく談笑していると、 突如けたたましい鐘の音が遮った。
ーーカンカンカンカンーー
なんだなんだ?
と、 僕がキョロキョロしていると、
オル「ふむ、 随分久方ぶりじゃないかのう? 」
マダム「そうだねぇ、 ここんとこは落ち着いてると思ったんだが……、 やれやれ。 」
2人が少し険しい表情をしていた。
そしてふとマダムが1声あげる。
マダム「さあて野郎共! 祝宴は一旦やめだ! 武器を取りな! 狂宴が始まるよ! あんたらが漢だってとこ見せやがれ! 今日はオルトリッヒがいるんだよ! 恥晒すんじゃないよ! 」
一瞬静寂が訪れた後、 マダムに負けじと男たちの歓声が沸き起こる。
男1「うぉおおおおお! 俺たちの力見せてやろうぜ! 」
男2「マダムとオル爺にいいとこ見せようぜ! 」
女1「あんたら! 野郎なんかに遅れをとるんじゃないよ! 」
より一層歓声は大きくなった。
マダム「さあ野郎共、 力を見せてみな! 」
マダムはそう言うと、 これまたデカいハンマーを片手で持ち上げ叫んだ。
あの大きさの物を片手で?
バケモンだ……。
男たちはそれぞれ武器を上に掲げると、 ゾロゾロと外へと向かっていった。
マダム「さあてあたしも行くとするかね。 オルトリッヒ、 あんたは休んでても良いからね。 あんたは今日は客なんだ。 ここは……。 」
オル「カッカッカッ! 見くびるなよ? わしも出よう。 血が滾るわい。 それにこやつにわしの技を見せるいい機会じゃ。 」
師匠はマダムの言葉を遮ってそう言った。
確かに師匠が戦うところはほとんど見たことない。
これはいい機会かもしれない。
オル「ゼロよ、 少し危険かもしれんが大丈夫か? 」
僕「はい! 自分の身は自分で守れます! お供します! 」
マダム「ハッハッハ! 気に入った! いい度胸だよ! さあ私らも行くよ! 」
マダムに続き、 僕らも外へ向かった。
村の外、 少し離れたところに冒険者達が陣形を組んでいる。
マダムは1人に状況を確認した。
マダム「さあてどうなってるんだい? 」
男1「はっ! どうやら魔物たちの群れが接近中のこと。 」
マダム「なるほどねえ、 数年前にあったあれかい? 」
男1「それがあの時とは違うようで……。 斥候の話によるとその妙なのですが、 統制が取れてるようなのです。 」
マダム「そいつは妙だねぇ。 」
オル「ふむう、 噂は本当だったか。 」
マダム「のようだね。 やれやれ何が起きてる事やら。 」
僕は離れた位置から進軍してくる魔物たちを見る。
確かに魔物にしては考えられた配置のようだ。
装備もなかなかいい。
マダム「野郎共、 アイツらにビビってんじゃないよ! 冒険者の意地、 見せてやろうじゃないかい! 」
男1「そうだ! この村を俺たちで守るんだ! 」
男2「俺たちの底力見せてやる! 」
魔物たちは、 着々と近づいてきていた。
そして目と鼻の先くらいに近づくと、 襲いかからずに立ち止まる。
それから列が真ん中からさけた。
そして雰囲気が明らかに違う、 恐らく魔物たちを率いているであろう、 魔物が姿を現した。
魔物「下等なる哀れな人間どもよ! 吾輩達の邪魔をするか! 無様に死に晒すがよい! 」
マダム「なんだい、 どんな奴が率いているのかと思えば。 頭の悪そうな小物かい。 残念だねぇ。 」
魔物「な、 なんだと? 死に損ないが! このバルミル様に小物だと? 貴様は1層残酷に殺してやろう! 覚悟するがいい! 死に損ない! 」
マダム「あんた、 今なんて? 」
マダムの雰囲気がガラッと変わった。
凄まじい殺気が静かに、 だが確かにそこに存在していた。
バルミル「あ? なんだ耳まで死に損ないか! ハッハッハ! こいつは傑作だ! 何度でも言ってやるよ! こ・の・死に…………ぐはあああああ! 」
突如高笑いしていたバルミルが、 吹き飛んでいった。
先程までバルミルがいた所らへんに、 マダムが立っていた。
…………
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