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残業を終え、コンビニで夕飯を調達し、
マンションに着いたのは21時だった。
重たい足取りでエレベーター前まで進み、
ボタンをしっかりと押し込む。
到着を知らせるランプの方を見つめ、
点灯するのをじっと待った。
点灯と同時に踏み出し始め、
扉を跨いでからようやく顔を上げた。
すると、朝と同じお爺さんが乗っていた。
驚きのあまり少したじろいだが、
構わず目的地を指定した。
偶然にも同じ日に2回も会うなんて。
しかし、偶然ではなかった。
それからというものの、
毎日どのタイミングに乗っても居るのだ。
お爺さんと出会って3日目。
思い切って声をかけてみた。
「あの、何階ですか?」
お爺さんが降りるのを
見たことがなかった為、
何階の住人なのかが気になったからだ。
しかし、返答はない。
この人は耳が悪いのかもしれない。
以前挨拶をした時にも返答が無かった。
もしくは認知機能が衰えていて、
一日中あそこに居るのではないかという
疑惑もあった。
謎は深まるばかりで、
エレベーターに乗るのが憂鬱になってきた。
はっきり言うと、薄気味悪い。
もしも若い女性が一人だったら、
恐ろしくて30階からだろうと
階段を使うかもしれない。
無視し続けてはいたものの、
8日目にはさすがに耐えきれなくなって
管理人にクレームを入れた。
「ずっとエレベーターに
お爺さんが居るのですが、
どうにかしてくれませんか。」
「それはできません。入居者なので。」
あまりにきっぱりと言われたので、
腹が立った。
こちらの不快な思いを少しは汲み取って
くれたっていいじゃないか。
かろうじて冷静さは保っているものの、
口から出て行く言葉は加速していく。
「別にこのマンションから追い出せって
言ってる訳じゃないんですよ。
ただあの人に自分の部屋に戻るよう、
注意してくれませんか。
ご家族とか介護士とか面倒見てる方は、
居るんでしょう。
だったらその方にご連絡を、」
僕の暴走を塞き止めるかのように、
衝撃の言葉が放たれた。
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