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■■駅は地域の主要駅なので、平日の昼間とは言え、そこそこ人の行き交いはあった。なにもやましくはないはずだけれど、なんとなく裏取引な気分で、まばらな人込みをこそこそとすり抜けてロッカーへ向かう。
「0075番…ここか」
拳銃or赤ちゃんor白い小麦粉様のなにか…。
得体のしれないなにかの入ったロッカーを開けるだなんて。まるで昭和のスパイ映画のようなアナクロ感に、妙な想像が沸き立ってしまう。
それでも開けてみようと思えるのはひとえに、過去の評価欄の☀マークたちのおかげだった。
全然ダーティーじゃない、大丈夫大丈夫。評価って大事。
鍵を差し入れて回すと、軽やかにカチンと音がした。
開かれた小さなスチールの空間には果たして。
――紙切れが1枚入っていた。
ピンクの薄いA4コピー用紙。横に4分割したチケット状のもの。
まさか肩たたき券とか言わないよね…?
手作り感あふれるチケットには「ツカダ珈琲 ドリンクチケット」「有効期限:□月〇×日のみ」とゴシック体で印字され、やる気も個性もない、のほほんとした絵柄で湯気のあがるコーヒーカップのイラストが添えられている。
3000円のコーヒー…ってことですか?
世間には、一杯が一万円を超える希少なコーヒーだってあるという。よしんばこれが、そんな高級コーヒーがお得に飲める権利だったとしても、購入者がコーヒー飲めない人だったらどうするんですか…?
若干がっかりしながらもチケットを裏返すと、お店の住所と簡単な地図が印刷されていた。市役所近くの古い商店街の一角。ああ、あそこか。前を通ったことは何度もあるけれど、入ったことはない、レトロな個人経営の喫茶店…。
まあ、行ってみますか。
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