エロメ会議 最終章

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エロメ会議 最終章

10a49382-7d3f-4bcc-b03f-d2c77e6482e2 「ちょっと待てよ!」 「離してっ!」 「いや、離さない。誰のとこ行くんだよっ!」 「ごめん、あたし、今からエロメ会議なんだ」    ここまでのあらすじ  エロメというあだ名に怒った先生がケイくんをビンタして、ラーマちょんが却下されました。(21世紀最低あらすじ候補作)  はい。  今、エロメ会議の3ページ目を読んでいる皆様。  他に、やることないでしょうか。  大丈夫でしょうか。  今から無駄な時間が始まります。  エロメ会議の長くかかった新あだ名候補が出揃いました。  窓の外には夕焼けが滲んでいます。  全国の小学生は今頃、家に着いてランドセルを下ろし、「いってきまーす」と、遊びに行っているのだろうか。  うらやますぃ。  黒板に目を移すと、わたしの挙げた『ラーマちょん』が小さく縮こまっていました。  思いました。  大人になっても選挙には出ない、と。  この少年が1年半後に大きくなったらシロナガスクジラになりたいと、卒業文集に書くことになります。  それはそれとして。  出揃った2強、『しらちゃん』と『ラーマ』。  ここから先生は◯◯くんにあだ名を選んでもらおうと呼び掛けるのです。  しらちゃんだろうか。ラーマだろうか。◯◯くんはどちらを選ぶだろうか。みんなの心臓の鼓動が聴こえるようでした。 「◯◯くん、みんながあだ名出してくれたけん、どっちがいいとね?」  どっちがいい? の時点でわたしのラーマちょんは落選が決まっているという侘しさはさておき、みんなが一斉に◯◯くんへ顔を向けました。  ここで事件が起こりました。  ◯◯くんは泣き始めたのです。  結構な声量でした。  この時、初めてわたしたちはエロメというあだ名が◯◯くんにとって辛いあだ名だったんだと知りました。  先生が、目を細めて、ふ、と息を吐き、「泣かんでよかよ」と、優しく言いました。  ◯◯くんの方を向いたわたしたちは今頃になって、悪いことをしたと思い、俯いていました。  と、◯◯くんが泣きながら、やっと口を開いたのです。 「ふぅ、うぅ、えぐっ、うぅ、え、え、えろ、エロメがいい」  どーーーん( ̄□ ̄;)!!  数人がたまらず「え?」と声を漏らしたの、今も鼓膜に張りついてます。  ぷるる、と先生が震えるのが分かりました。  ショートメールでも受信したのだろか?  いや、違う。怒ってるっちゃよ。 「あんた、何ば言いよっとね! エロい目って呼ばれよっとぞ! それを…★"§§★◆▣#:::ж━◉◁*━ж」  先生が混乱して、また、ほんやくこんにゃくでしか訳せない言語を話し出しました。  ドラえもーん!  もう、みんなの時が止まっていました。  ザ・ワールド  想定外。  その想定外に◯◯くんがトドメで、ロンギヌスの槍を突き刺します。 「う、うぇ、えぐっ、ひっ、ひっく、せ、せん、先生にあだ名とられた」  ずっこーーーん( ̄□ ̄;)!!  そう。  ◯◯くんは、ちょっとだけこういうところがありました。今の時代になって思えば仕方ないことだったんだな、と分かりますが、あの当時は全く分かりませんでした。  わたしは、◯◯くんに毎日九九を教えていました。  九九のラッキー段と言えば、言わずと知れた1の段、5の段でしょう。◯◯くんは5の段が卒業するまで無理でした。 「何で5の段になったら無理になるっちゃろか」 「うーん、難しかばい」 「難しくなかろうもん。ごいちは?」 「ご」 「ごに?」 「じゅう」 「ごさん?」 「にじゅうし」 「何で? 10足す5は?」 「じゅうご」 「うんうん。ごに?」 「じゅう」 「うんうん。ごさんは、10に5足すだけばい。そしたら分かるやろ?」 「うん、分かる」 「うんうん。ほんじゃ、ごさん?」  「にじゅうし」 「…………。う、うん。まあ、ほんじゃ、さんご?」 「さんご?」 「いや、こっちが聞きようとよ。さんご?」 「じゅうご」 「うんうん。3×5は、さんご15やんね」 「うんうん」 「分かる? うん、そしたら3×5と5×3も一緒やね?」 「うんうん。分かる」 「うんうん。ほんじゃ、ごさん?」 「しじゅうに」 「おっふ。にじゅうしでもなくなったん?」 「あ、ごめん。にじゅうし」 「あー、ごめん、ちゃうちゃう。にじゅうしでもないっちゃけど……」   こんな感じでした。  ◯◯くんは「先生にあだ名をとられた」と号泣しています。  先生、呆然。  頬を腫らしたケイくんの左頬の痛みはなんだったのか。  静まりかえる教室。  綺麗な夕焼け。  弥生時代からここまで一度も人類が開催しなかったエロメ会議に悩まされる五年四組。  わたし、危うく口に出しそうになりました。 「公文行くもん」  そう言って逃げたかった。  先生、めちゃめちゃ悩んでました。人として、先生として、正しいことをしている。先生にはその確信があったはずです。  でも、◯◯くんはエロメを先生に取られたと言っている。  だいぶ泣いている。  私は間違っていたのだろうか? ケイくんを平手打ちした私が悪かったのだろうか? いや、これ、何で私が悪者にならにゃならんのだ?  そんな心情だったのでしょう。  先生、ふう、と息を吐き、落ち着いて言いました。 「分かったわ。先生が◯◯くんに相談せずに進めたのが悪かった。◯◯くん、先生は反対やけど、エロメでもよか。ここにあるあだ名でもよか。どれが良いか最後に選び」  観念した先生。  徒労感に襲われる五年四組。  やっと決着がつく。  帰りたい。  公文行くもん。  様々な思いが錯綜し、◯◯くんが涙を拭いながら最後の一言を言いました。 「悟空がいい」    翌日、誰も◯◯くんを悟空とは呼びませんでした。  エロメと呼ばれていましたが、◯◯くんも嬉しそうにみんなでドッジボールをしました。  これでいいのだ。 エロメ会議 ~しらちゃんとラーマとラーマちょんの物語~ 完
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