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てるちゃん②
「キス……するよ?」
「う……うん」
「……キスする前に、ひとつ、聞いていい?」
「ドキドキするから……はやく……して?」
「……じゃあ、聞いちゃうよ?」
「うん……」
「てるちゃんって……誰?」
「次の写真みたいな塾講師よ」
わたし、本気でプロ作家目指してるんです。
今、叶わないかもな、と思っております。
はい。
有心ゼミナール講師、てるちゃん(照島先生)の伝説第2回です。
酸素吸うくらいしかやることないや、という時間にお読みください。
上の写真のごとく、気性の荒いてるちゃんは、何事にも感情を見せようとしないカバ(椛島くん)に、今日もキレていました。
「かばしまあぁぁぁ! 立てぇぇい!」
本日は、机の上で肘をついていたのがお気に召さなかったようです。
スッと立つカバ。
何も言わないカバに、これまた苛立ちを覚えるてるちゃん。
「あやまらんかあぁ、こらぁ! かばし……」
「すみません」
食い気味のすみませんに、噴火寸前のてるちゃん。キラウエア火山のよう。良い大人が地団駄踏んでます。
ちなみに、授業、止まっております。
ぐぬぬ。
↑これ、漫画以外で聞いたの、わたしは人生でてるちゃんだけです。
「もうよかぁ! かばしまあぁ、授業止めとるばい、みんなを待た……」
「すみません」
「ぐぬぬ」
犬と猿でも、もう少し通じ合えるだろう。
とにかく、こうしたやり取りが多かった。
熱血ながら、頭に血が昇ると完全にやり過ぎになる、てるちゃん。そして、反抗期だったのか、敢えててるちゃんが怒りそうな態度で攻めるカバ。
わたしたちは、「はあ、またか」と思いつつも、結構このやり取りを楽しみながら、国語の時間の妙な緊張感を楽しんでいました。
そんなある日。
カバが珍しく塾を休みました。カバは小学校では無遅刻無欠席。この時、わたしはクラスが違っていたので、学校を休んでいたかは知りませんでした。
この日、国語の授業中、どこかてるちゃんは元気がありませんでした。
翌日、学校で小さな騒ぎが起こりました。有心の先生が学校にわざわざ電話をかけてきた、と。
実は、夜中まで熱血授業をする有心ゼミナールは、学校からは嫌われていました。その有心の塾講師が、椛島くんは学校に来ていますかと訊ねてきたという。学校としては、お答えできない、と電話を切ったそうです。
その日、塾で国語の授業が急遽数学や英語の授業に変わりました。わたしたちは、その時はその理由を知りませんでした。
その翌日、カバと学校の廊下で会いました。カバが薄く笑いながらわたしに言ったのを覚えてます。
「照島、家来たとばい」
そう言って、カバは笑いました。呆れ笑いのようで、でも、カバは嬉しそうな顔をしていました。すごく覚えてます。
カバが休んだ原因は知りません。ただ、カバの家は少し変わったところがあり、その家庭の問題だったのかもしれません。
噂ですが、てるちゃんはずっとカバの家の前でカバの家の人が帰ってくるのを待っていたそうです。お父さんなのかお母さんなのかは分かりませんが、てるちゃんがどちらかに気持ちをぶつけて、カバの好きなようにさせてくれと願ったそうです。
日が沈み、カバは有心に来ました。
「こらあぁぁぁ! かばしまあぁぁぁ! 休んどる間に進んどっとぞ!」
手を振り上げて、てるちゃんはカバをこれでもかと怒っていました。いつもの、いや、いつも以上の光景でした。
それでも、どこかてるちゃんは元気で、カバはカバで、ちゃんと「はい」と返事してました。
カバはその夜、初めて残って自主的に掃除係になっていました。
「こらぁ、ちゃんとチリトリで最後まで取らんと意味がなかろうもん、バカタレぇ!」
掃除しながらも、てるちゃんはカバを怒ってました。が、顔は笑っていました。
なんだか、今思い出しても、あの夜中0時過ぎの空間はとても心が安らぎます。本当の人と人とを繋いでいる熱さ。それが、溢れていました。
てるちゃん編はまだ続きます。
それでは、また次回まで。
ごきげんよう!
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